それは些細な不運が重なって。
積もり積もって、あんたを真っ逆様に崖の下へと転落させた。

「大丈夫?クレプスリー!!」

慌てて崖を伝って降り、あんたの下に駆け寄った。

「・・・・・・これが大丈夫なように見えるか?シャン君よ・・・・・・」
「・・・・・・うっわ・・・・・・」

苦々しい顔で指し示したあんたの足首は見る見る赤く腫れ上がっていく。
良くて捻挫、悪ければ折れているかもしれない。
見ただけで痛みが伝わってきそうだ。

「歩ける・・・・・・わけないよね」
「うむ・・・・・・無理ではないだろうがあまりしたいとは思わんな」

目に見える外傷があるわけではないから、お得意のバンパイアの唾をもってしてもこれを治すことは出来ない。
バンパイアってすっごい便利なようで実は不便な生き物だよな。

「しょうがない。僕が抱えて運ぼうか」
「なに!?」
「他に方法もないだろ?」
「う・・・・・・む・・・・・・。だが・・・・・・」
「あんたがコウモリにでも変身して空を飛んでくれるなら何の問題もないんだけどさ」
「バンパイアは変身などできんわ」
「でしょ。だから・・・・・・っと、こうする以外の選択肢が無いの。わかった?」

よっこいせ、なんて上っ面だけの言葉を口にしながらクレプスリーの身体を抱き上げた。
病気を治したり変身したりは出来ないけれど、バンパイアは見かけの何十倍も力が強い。
大して筋肉質でも無い僕だけれど、クレプスリーの身体を抱えるくらい朝飯前だ。
それに、僕は最近ようやく一度目の純化を終え力が有り余っている。
身長もクレプスリーよりも幾分小さいというところまで伸びた。
小さな身体のまま運ぶのは誰か旅人の目に止まった時、奇異の目で見られて噂される可能性もあるだろうが、これだけ身長差が無くなれば気にする必要もない。

「さて・・・・・・。あんたを抱えたまま崖登りは危ないから迂回路探そうか。上手いこと上に上がれるといいんだけど」
「・・・・・・おい・・・・・・」
「なに?」
「何なんだこれはっ!?」

クレプスリーが喚く。

「うるっさいなぁ。仕方がないって言っただろ。ちょっとくらい我慢してよ」

僕だってあんたがこういう扱いをされるのを嫌っているって言うのはわかってる。
でも方法が無いんだから今くらいは我慢してくれてもいいと思うんだけどな。

「我慢もクソもあるか!?何故いちいち横抱きなんだ!?背中に背負えばいいだろうが!!」
「え〜。こっちの方がいいじゃん」

顔のすぐ下で噛みつかんばかりの勢いでがなるクレプスリーとそれを適当に受け流す僕。
背中と膝下に差し込んだ手でもってクレプスリーのことを横抱き──いわゆる『お姫様抱っこ』をしているのである。

「大体さ、あんたそんだけ腫れた足で背負われてたら鬱血絶対酷くなるよ。少しでも患部を上に上げて腫れないようにしてやらないと」
「そっ!・・・・・・れは・・・・・・そうかもしれんが・・・・・・」
「あんたが足を上げつつ運べる体勢がこれしかないの。わかるでしょ?わかったら大人しくしてよ」
「しかしだな・・・・・・」
「それにさ、この方が恋人っぽい感じじゃん?」
「っ、なっ!?」

あ、珍しくクレプスリーの顔が真っ赤になった。
なんだよ、今更照れることでもないだろ。

「だ・・・・・・誰が恋人だっ!お前何ぞ何年経っても手の掛かるガキだろうがっ!!」
「なんだよ・・・・・・純化もしたし、もうあんたと十分釣りあうようになったと思うんだけど?」

実際、僕たちの見た目はもう親子と言い張るにはいささか無理がある。
街に行く度に疑惑の目を向けられていること、あんたも知っているだろう。
さっさと認めてしまえばいいのに!
あんただって僕のことをそういう目で見てることくらい知っているんだからな!
何年あんたの手下やってると思ってるんだ!
気付かれていることに気付よっ!!

「ぬかせっ!純化したとは言えまだまだ半バンパイアの分際で何大口を叩いておるっ!」
「なにが不満なんだよ!?あんたのことを僕以上に好きになってくれる奴なんて金輪際現れないんだからね!?」
「そんなもの現れんで結構だっ!純化して頭にウジでも沸いたか!?このバカが!」
「バカはあんたの方だよバカプスリーっ!いい雰囲気で運んで上げようとしているんだから黙って運ばれなよ!」
「うるさい!お前にグダグダ言われるくらいなら自分で歩いた方がましだ!降ろせっ、降ろさんか!!」
「暴れるなよバカ!地面に全力で叩きつけられたいのっ!?」

半バンパイアの力を舐めるなよ?
いくらあんたと言えどもこの近距離で地面に叩きつけられたら無事ではいられないぞ!

「バカかお前は!師を脅す手下がどこの世界におるか!!第一、それが怪我人相手にすることか!少しは脳味噌を使え!」

ああ言えばこういう!
あぁっ!!うるさい人だな!
なんかこの人を黙らせるいい方法は・・・・・・・・・あっ!

「大体、お前は昔から師に対する尊敬の念というものが足りておらんのだ!我が輩の言うことに黙ってかしずくくらいの心持ちがあるのが普通だろう」
「クレプスリー・・・・・・」
「なん・・・・・・ん、ぐっ!っ!?!?」

とりあえず、あれをそれして強制的に黙らせてみた。
何をしたかはみなまで聞くな。
何はともあれ大人しくなった。
ついでに、突然のことに脳味噌フリーズしたらしく動きも静止してくれた。
よし、一石二鳥だ。

「・・・・・・ん、っは・・・・・・ぁ」
「・・・・・・」

わめき散らす口を解放した後も、クレプスリーは半ば放心状態でフリーズしている。
再度喚かれる前に、もう一本大きな釘を打ってしまおう。

「あんたがこれ以上暴れるなら・・・・・・今度は突っ込んで黙らせるよ」

ナニを、とは敢えて言わないけれど。
あんたも男なら察しはつくだろ?

「・・・・・・ん、なっ!?」

見る見る赤くなるあんたの顔が、僕の言葉を理解したことを教えてくれた。
よかったよかった。
そーゆー発想が出来る位には枯れていなかったみたい。
実際ちょっと心配だったんだよね。
いろいろ鑑みて、使いものにならなくなっている可能性もあったわけだし。
いやー良かった良かった!

口をパクパクさせて言葉が出ないらしいあんたに向かって、僕は言う。

「こちとら性欲を持て余した青少年だってこと忘れないでよね」
「・・・・・・・・・」

ようやく、クレプスリーは僕の腕の中で大人しくなってくれた。
よいしょっ!と抱えなおして僕はテクテク歩き出す。
よしよし。いい感じだ!

「・・・・・・我が輩は・・・・・・育て方を間違えたのだろうか・・・・・・」

あんたがボソリと呟いたのを、僕ははっきりと聞いた。
うるさいよ!聞こえてるよ!
でも、あんたのことが好きなんだからしょうがないだろ!!
今襲わないだけ感謝して欲しいくらいだよ!





狼は青少年





三周年リクで頂いた「ダレクレでお姫様抱っこされて照れるクレプスリー」でした。

書き終わってから思ったけど、これお姫様抱っこと照れるの間に相関がありませんね。やらかしたー!

ダレクレって初書きなので手探りグリグリ状態。

こんなので良かったのかどうかの検討もつきません。

俺的ダレクレは、ダレンはクレプ好きをアピールするけど

クレプの方が親子愛からの一線を越えることを躊躇して

なかなか進展しないもだもだカップルなイメージです。

両思いのくせに両思いになることを躊躇するとかマジ据え膳!生殺し!

こんなんでいかがでしょうか?

リクエストありがとうございました!

2011/05/31




※こちらの背景は RAINBOW/椿 春吉 様 よりお借りしています。




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