それぞれの行き方
間違いだったとは思っていない。
そう信じていたし、全てが終わった今もそう信じている。
だが、『正しかったのか?』と問われれば言葉に詰まる。
正しいことと間違いとは決して対極に位置するものではないと知っている。
裏切りが誠実と対極でないように。
悪が善の対極でないように。
死が生の対極でないように。
それらは全て分極であり、多角的視点であり、同一だった。
相容れないものであり、不相応のものであり、同義だった。
だから、俺は自分のしたことを正義だなんて言わない。
まして、不徳だとも思わない。
ただこの胸に、あの日から今までずっとあり続けるのは、自分が間違っていないと信じる自分の心。
そう信じることでしか己の正当性を確かめる術を持っていない。
人は欺瞞だ、偽善だ、詐欺だ、と俺を罵る。
構わない。
言いたい奴には言わせておけばいい。
他人の言葉で揺れ動くような、生半可なことはしていない。
自分の心を理解するのは俺(私)だけで十分だ。
「後悔はしていない」
「そうか」
「うらやましいとも思わない」
「そうか」
「お前が生きているということは、俺が生きた証そのものだからな」
「・・・・・・・そう、か?」
「そうさ」
「・・・私達は、既に別の生き物だ。それぞれが別々の意思を持つ固有体」
「だが俺はお前だ」
「私はお前じゃない。・・・・・いや、逆かもしれないな。お前の記憶を有する私がお前で、だが私の記憶を有さないお前は私じゃない」
「それを言ったら、お前は生まれて以降俺の記憶を知らないはずだ。だからお前は私じゃないことになる」
「ややこしいな」
「何もややこしいことなんて無いさ」
「十分ややこしいだろ」
「記憶なんてそんな些細なものに惑わされるな。俺たちは、同じ魂を有している。俺のココと、お前のココにあるのは今も昔も変わらない。俺たちにとってのたった一つの真実だ」
「・・・・・・・そうだな・・・・・・」
「一つの魂が辿った二つの軌跡だよ」
「果たして本当にそれは幸せなんだろうか」
「・・・・・・二つに分かたれたからこそ知れ得たことがある。何を置いてでも優先させたいことがあった。
だから俺は幸せだ。
ココは暗く冷たいけれど、全てはそのための代償だと思えば辛いことなんてない。
一側面しか知りえないはずの人生で、二側面まで垣間見れたんだ。十分すぎる。
俺は確かにあの時処刑され、死んだ。
運命と契約してでも生き返ろうとした。
すべて俺が、俺たちが望んだ道だ。
後悔なんてあるはずが無い。
そういう道を俺たちは、俺は選んだんだ。
少なくともお前は俺がこうして生きたこと、死んだことを知っていてくれる。
この胸に宿る遺志をお前がそっくりそのまま知っていてくれる。
これ以上の幸福なんてあるわけない。
だから、何も気に病むな。行け。
俺たちには俺たちの生き方が、お前の行き方があるはずだから」
「――――そうだな。私達は、ここでさよならだ」
「あぁ、親友」
「私達は二度と逢うことはないのだろうな」
「残念ながら」
「それは少しだけ、寂しいことだ」
「別れに寂しさは付き物だって『俺』は知っているぞ?」
「私も知っている」
「・・・・・・・俺は、きっと遠い未来にまだ何か出来ることがあると思っている。
それが10年後なのか、100年後なのか、わからないが・・・・・・きっと何かあると思う」
「あぁ、私もそう思う」
「だから俺はそのためにココに残る。最後の役目を果たすために。
我等の希望がまだ俺の手を必要とする限り、ここに居続けてやる」
「気の済むまでそうしたらいい。私でもきっとそうする」
「お前はどうするんだ?」
「私は・・・・・・私は、お前がしたかったことをしていこうと思う。
バンパイアであり、バンパニーズであり、リトルピープルである私だからできるやり方で。
そして、いつかこの魂をバンパイアの楽園に連れて行ってやりたい」
「そうか」
「私はお前じゃない。が、この魂は私のものであり、お前のものだ。
きっと通じると信じている・・・・・・」
「・・・・ありがとう・・・・」
「じゃあ、お別れだ」
「さようなら、ハーキャット」
「さようなら、カーダ」
「「さよなら、俺(私)」」
別たれた道は二度と交わらない。
だけど、
道は交わらなくても。
手を伸ばせば届くかもしれない。
その時まで、その日まで、
さよなら
漫画版の12巻死闘終了のお話。
ダレンが死んでしまった後どこかでこんな邂逅があったらいいな。
精霊の湖でのカーダはきっとダレンが引き上げられるのをずっと傍で待っていたんだと思うの。
ダレンは自分の後悔でいっぱいいっぱいで気づかないだけで
数千年ずっと見守り続けてたとかっだたら萌え。
2010/02/16
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。