空へ昇る僕の魂
昇って、のぼって、ノボッテ………そして―――




Now let's start here




「……っ!……あ、れ……?ココは……?」

間の記憶がぷっつりと途切れている。
気がつくと僕は真っ白なところに立っていた。
何も無い、ただただ視界の限りに白が広がるだけの空間に。

これがバンパイアの楽園?想像してたのと違って、えらく殺伐としたところだな・・・・・・て言うか誰もいないし何にもないし。
それとも、もしかしてこれっていわゆる『地獄』なのかな?
確かに、僕自身褒められる人生(バンパイア生?)を送ってきたかといわれれば言いよどんでしまうけれど。
エバンナに引き上げられるまでの数千年の間、繰り返し繰り返し後悔の念に囚われていたんだ。
今更楽園に行きたい、だなんて贅沢は言わない。
だけれどもこんな放置プレイを受けるのは御免被りたい。
こんなところに一人で放置されるくらいならタイニーの手下やってるほうが数倍マシかもしれないぞ?

なんて心の中で唱えても返事が返ってくる様子も無く。
途方に暮れて僕はその場に座り込んだ。

「・・・・・・・せめて誰か、ココがどこで僕はどうすればいいか教えてくれよ・・・・・」
「裁きの間だ」
「っぅわぁあぁぁっぁっぁあっっっ!?!?!?!?」

突然背後から聞こえた声に、僕は心底驚いた。
そりゃぁもう、口から心臓が飛び出るんじゃないかってくらいに!
だって物音一つしなければ、人影もなく、気配なんてものも何にもなかった。
慌てふためいて後ずさりしながら後を振り返ると、そこには目深にフードを被った男が立っていた。
足先まですっぽりと覆えるような長いマントも着けていて性別なんてわからないけれど、なんとなく、僕は男だと直感した。
敵意こそ感じられないが何者かもわからず、僕は恐る恐るフードの男に問いかける。

「・・・・・・・・・・だれ・・・・・・?」
「私は案内人。お前を導くためにやってきた」
「じゃあ、ココは僕の終着点じゃないんだね?」
「ココは留まる場所ではない。分岐点だ」
「・・・分岐・・・?」
「ココは裁きの間。楽園に行く者と精霊の湖に囚われる者とを振り分ける場所」
「あぁ・・・・・・それであんたが裁きを下してくれるってわけね」
「違う。本来であればココで裁きが下されるのだが、お前は文句なしに楽園行きだ。楽園まで導くのが私の役目」

さぁ、と言って男は手を差し出した。

「楽園で皆がお前のことを待っている」

皆が、この手の先にいるのか。
先に逝ってしまった皆が。
懐かしい人たちに逢えるんだ。
ガブナーやエラ、それからパリス
それから―――

「・・・・・・あの人もいるかな・・・・・・」
「?」
「クレプスリー。ラーテン・クレプスリーも待ってる?」
「あぁ。ずっと待っていたぞ」
「そっか」

やっとあの人に逢えるんだ。
長かったな、ココに至るまで。
いろんなことがありすぎて逢ったら何を言ってやろうか考えてたこと、皆忘れちゃったよ。
いっぱいいっぱい言ってやりたいことがあったのに。

「・・・・・・・いざとなったら言葉が出ないって、こういうことなんだね・・・・・・」

こみ上げてくるいくつもの感情。
嬉しいも
悲しいも
愛しいも
寂しいも
大好きも
大嫌いも
ありがとうも
ごめんなさいも

さよならも

言葉にして音を紡げない

「――――どうした?」

男が伸ばす手を僕は取れない

「・・・・・・僕は・・・・・」

迷うことはない。
さぁこの手を取るんだ。
充分過ぎるくらい大変な思いをしてきたじゃないか。
もう、休んでもいいじゃないか。

それでも、僕の手は伸びない。

「楽園に行きたくないのか?」
「違うよ。そうじゃない・・・・・・」

行きたいよ。
皆に逢いたいよ。
逢いたいよ。


でも

「そこにはあいつはいないんだ」

約束したんだ。
どんなことがあっても、僕はあいつの友達だって。
ずっとずっと僕を恨み続けた僕を、あいつは最後の最後、わかってくれた。
僕を信じてくれた。
だから
僕は行かなきゃ、あいつのところに。
これ以上、あいつに寂しい思いをさせちゃいけないんだ。

「わかっているのか?お前は一度リトルピープルとして生まれ変わっている身。二度と生を受けることは出来ないんだぞ」
「それでも・・・・・・僕は行かなきゃ」
「―――そうか。ならばもうこれ以上言うことは何もない」

そう言って、フードの男はちょうど僕の身長と同じくらいの四角を虚空になぞる。
一周ぐるりなぞると、背後がぱぁっと光を放った。
振り返って見やれば、そこには大きく開かれた一枚の扉が出現していた。

「その扉をくくればお前の行きたいところにいける」
「・・・・・・ありがとう」
「さらばだ、ダレン・シャン。もう二度と会う事もないだろう」
「・・・・・そうだね・・・・・」

これでもうお別れなんだ。
もう二度と、二度と逢う事はできない。

それでも

扉に片足をかける。

後戻りなんてしない。

そして一言、僕は漏らす。

「最後に一目逢えて嬉しかったよ。バイバイ、クレプスリー・・・・・」


背後で息を呑む声が聞こえた。
僕があんたに気がつかないとでも思ったのかよ。
ばかばか、大好きだよ。
あんたのことだ。
こうなることがわかってって、僕のことが心配で、来てくれたんだろう?
ごめんね。
ごめん。
いつもいつも心配ばかりかけて。
これで最後だから。
あんたの手を煩わせるのも、これで最後だから・・・・・・
もう二度と・・・・・・・・逢えない




「・・・・・・・・っ!!!」

堪えきれずに、扉をくぐりきる寸前に振り返った僕の眼に映ったのは

想像通りの優しく笑うあの人の笑顔だった。

そう、僕が見たかったのはあんたのその顔だ。
すまなそうに微笑むんじゃなく、ただただ、笑って欲しかったんだ。

「ばいばい。・・・・またね」
「あぁ。またいつか」

何時叶うとも分からない不確かな約束を交わして。
僕の姿は暗く昏い所へ、落ちていった。


■■■   ■■■


「よう、ダレン。楽園にいけたはずなのに何もったいないことしてるんだよ」
「・・・・・・スティーブ・・・・・」
「向こうにゃバンパイアのお仲間が沢山いるんだろう?」

皮肉の篭った物言い。
間違いなくこいつはスティーブだ。
よかった・・・・また逢う事ができた。
正直なところ、無限に広がっているように思えるこの湖でスティーブを見つけることが出来るかどうかはある種の賭けだった。
したかった事も出来ずにまた湖に閉じ込められたとあっては折角助けてくれたエバンナに立つ瀬が無い。
安堵感からか、僕はその場に崩れ落ちた。

「・・・おっ!?おい!ダレン!?」
「大丈夫、ちょっと気が抜けただけだから」

上も下もわからない湖の中では横になっているのか起き上がっているのかもよく分からないけど、ひらひら手を振って大丈夫だとアピールすると、スティーブは僕の横に並んだ。

「で?どうなんだよ」
「まぁね。向こうには皆がいるけど、でも・・・・・あそこにお前はいないから」
「ダレン・・・・」
「あ〜ぁ!折角クレプスリーにも逢えたのになぁ!」

大仰にため息なんかついてみる。
別れを選択したのは自分自身なのだから、もちろん後悔なんかこれっぽっちもしていない。
しかしスティーブは僕の言葉を鵜呑みにしたようで、神妙な面持ちで答える。

「・・・・・・今からでもお前は楽園に行けよ。ココにいたってやることは過去を振り返って後悔し続けることだけだ。
 お前だけでも、・・・・幸せになれよ・・・・・」

らしくないことを言うスティーブ。
あぁ、お前って本当

「ほっんとバカだなぁ!スティーブは」

思いっきり脇腹にパンチを食らわせてやった。
突然の攻撃に驚いたのか、悲鳴を上げて飛び上がったのを見て僕はケタケタ笑い声を上げる。

「っなにすんだよっ!!」
「僕たち、ずっと一緒だろ?」
「・・・・・・・・・」
「運命だって変えられたんだ。僕たち二人にできないことなんてない。・・・・そうだろ?」

僕は手を差し出す。
あの日の自分に。
あの日のスティーブに。


「そう・・・・・だな・・・・・」

差し出した手を、スティーブが取る。
さぁココからはじめよう。
あの日壊れてしまった友情の続きを。
僕はこれからスティーブにいっぱい伝えなきゃいけないことがあるんだ。
だって僕はまだ『ありがとう』も『ごめん』も伝えられていないんだ。

お前一人、格好つけたまま別れられると思ったら大間違いなんだからな!


■■■   ■■■


「・・・・・これで本当によかったの・・・・?」
「あやつが決めたことだ。我輩がとやかく口を挟むことじゃない」
「でも・・・・」
「それにな、エラ。我輩はこうなることを予想しておったのだ」
「ラーテン?」

「子はいつか、親の元から巣立っていくものだからな」









書きたいように書いてみた!

スダレなのかダレスなのかは書いてる本人にもよく分からない。

12巻終了後妄想ですが、楽園に行かないダレンもありかなって思ってみた。

行かない理由ってどう考えてもスティーブのため以外ありえないよね。

カーダはサイラッシュとか仲間がいるはずだし

楽園には皆が揃ってるし。

なのにスティーブだけが一人ぼっちとかかわいそうじゃない!

そんな感じの救済小説でした。

2009/08/28





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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