何となく、足下がすーすーして目が覚めた。
目は覚めたが視界の闇は決して晴れない。
いつものことだ。
この闇は、もう二度と晴れることはない。
わかりきったことを、そして、言い聞かせ続けた答えを、再度認識して体を起きあがらせた。
体調は・・・・・・まぁ、悪くはない。
いつも通りと言ったところだ。
それにしても、どうにも下半身がすーすーして落ち着かないのはどういうことだろうか。
思い当たる節もなくて手を伸ばす。
「・・・・・・なんだこりゃ?」
手に触れたモノは、自分の記憶の中のあるものと一致した。
が、どう考えてもそれは俺が身につけるような代物ではなかったはずだ。
そもそも、何だって俺はこんなモノを着ているのか。
自分で着たというのか?そんなまさか。
だいたい、これはいったいどこからわいて出たものだというのだ。
思いだそうと試みるが、記憶がどうにも曖昧だ。
昨日飲み過ぎた酒のせいだろうか?
まとまらない思考を繰り返していると、扉が開いた。
「起きた?」
声を聞かなくても誰だかわかる。
「このみょうちきりんな格好はお前の仕業か?ダリウス」
「何のこと?」
「しらばっくれるな。こんなモノ俺に着せて何が楽しい?」
「何言ってんのさ。ソレはバネズが自分で着たんじゃないか。僕なんかが無理矢理しようとしたって力負けするに決まってるだろ?」
「・・・・・・自分で?俺が・・・・・・?」
「・・・・・・覚えてないの?」
・・・・・・記憶の端にも引っかからない。
そもそも昨日は何で酒を呑んでいたのかという理由すら思い出せない。
「何で俺はこんなモノを着ているんだ?」
自分の下半身を纏う奇怪は布切れをつまみ上げた。
それはいわゆる、スカートと言う奴だ。
名前くらいは知っている。
それが主に女性が身につけるものだと言うことも知っている。
では何故俺が穿いているのか。
俺は男だし、女装をするなどと言った性癖も持ち合わせてはいない。
だが現実に俺はスカートを穿いている。
「だから、バネズが自分で着たんじゃん」
「・・・・・・すまんがその辺をもう少し詳しく・・・・・・」
情けないほどに記憶が戻ってこない。
自分が知らなかっただけで実はそういった性癖があったのだろうか?
もはや自分自身が信じられない。
「昨日の夜のことだよ?覚えてないの?」
「悪いが全く・・・・・・」
「あいつらが帰ってきたことは?」
あいつら、という言葉に心当たりはあった。
そういえば明け方近くになって双子を連れた二人が久方ぶりにバンパイアマウンテンに帰ってきたような・・・・・・。
「うっすらとは・・・・・・」
「・・・・・・ま、あの時点でバネズべろべろに酔ってたしね」
「そう・・・・・・だったか・・・・・・?」
「そうだったよ。それで、帰って早々ティダが『お揃いがきたーい!』ってわがまま言い出してさ。
それがフリッフリのスカートなもんだから誰も立候補なんていなくて・・・・・・こんな時に限って女性陣みーんな外に出払ってるしね。
んで、どーしよーかなーこのままだと癇癪起こすかなーって思ってたら、バネズが『そんなもの俺が着てやるっ!!』って、自分で穿いたんだよ?
みんなで止めたけどそれを振り払って」
「・・・・・・・・・」
何をやっているんだ俺は。
いくら酔っているからと言っても、まさか若造のように正体を無くすだなんて・・・・・・。
自分の年齢を考えろと言ってやりたい。
「これに懲りたら、深酒はやめることだね!」
こちらが盛大な二日酔いになっていることを見越しているのだろう。
ダリウスは意味もなく声を張り上げた。
頭の奥の方を棍棒でがつんと殴られたような衝撃が襲う。
「わかったから・・・・・・声を張るな。頭に響く・・・・・・」
「僕はいいけどね。でも、もうすぐあいつらが来るんじゃない?鉄砲玉二匹が」
「う゛っ・・・・・・・・・」
そういえば、バンパイアの鋭い聴覚が遠くでバタバタ走る二人分の足音を捉える。
静かにしろと言って聞くような相手ではない。
後30秒もせずに訪れるだろう地獄のような頭痛を想像して頭を抱えた。
くそっ!金輪際酒なんて呑むものか!
酒など呑んでも自分の醜態を晒すだけで何一つ益になどなりゃしない。
「呑み方を善処することをオススメするよ?初めてお酒を飲んだ若造じゃないんだしさ」
「お前に言われなくても・・・・・・」
「わかっているならいーんだけど」
「・・・・・・」
あぁ。
いつからこいつはこんな小憎ったらしい物言いをするようになったのか。
最近何かと俺のことを舐めてかかっているような気がする。
素直に俺の話を聞かなくなったし、何かにつけては俺の揚げ足を取ろうとしている節がある。
昔のように構おうとすると「やめろよっ!」と言って割と本気で拒絶したりもする。
これがいわゆる『反抗期』という奴なのだろうか?
よくわからん。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうだ。
そういえば・・・・・・
(俺はそのことをハーキャットに相談していたんじゃなかったか?)
うっすらともやがかっていた思考が少しだけ晴れる。
そうだ、そうだったはずだ。
反抗期に入ったのかも知れないダリウスに対してどうやって接したらいいものかハーキャットに相談していて。
話をするうちにもやもやとした憤りが生まれて。
酒でも呑んでないとやっていられない気分になって。
(そして現在に至る、だ)
と言うことはあれだ。
今俺がこうして二日酔いに頭を抱えているのも。
酔った勢いでスカートなんか穿いてしまっているのも。
(基を正せばこいつのせいってことじゃないか)
なのにこの不遜な態度はいったいどういうことだ。
全くもってなってない。
ここは一発、師としての威厳を見せつけるためにがつんと言ってやらなければ・・・・・・っ!
「・・・・・・おい・・・・・・ダリウ」
頭に響かないように低めに出した言葉をすべて吐ききるよりも前に。
「「ばねずーーーっ!!!おはよぉーーっっ!!」」
「!?!?!?qあwせdrftgyふじこっっっ!?!?」
双子の甲高い声が俺の頭を割に掛かった。
「えへへっ!ティーとバネズはねーおそろなんだよぉぉ!!」
「今度は僕とおそろの着てね!?絶対だよ?約束だよ?」
「やめっ・・・・・・でか、い声出す・・・・・・なっ!」
「なんでー!?」
「なんでーっ!?」
「今からお出かけしよー?」
「お散歩しよー!!」
「やめっ、やめろ・・・・・・っ!やめて・・・・・・くださ・・・・・・・・・」
もはや俺に威厳などかけらもない。
ただゴミくずのように地面にうずくまってただただこの嵐が一刻も早く通り過ぎることを祈るばかりだ。
「・・・・・・バネズ・・・・・・ソレはいくら何でも格好悪いよ・・・・・・」
ダリウスが哀れんだ目で俺のことを見ようとも。
だいたいこんなことになってるのはおまえのせいなんだ!
おまえにそんな目で見られる筋合いなどない!!
「良いから・・・・・・早くこいつら外に・・・・・・・・・」
「バネズっ!貴様私を差し置いてティダとおそろを着ているとはどういう了見だ!!」
「ふぎゃぁぁぁぁっっっぅつ!?!?」
今度はものすごい剣幕のミッカー元帥が部屋に押し入る。
反論の隙すらも与えてもらえず、襟首を捕まれ上下に左右にガンガン揺すられた。
あ。
やばい。
これは、やばい。
胃の奥の方からこみ上げてくる何か。
何か、などと言葉を濁したところで出てくるものは同じだが。
・・・・・・・・・数十秒と待たずに、俺は元帥の顔面に嘔吐物をぶちまけるという人生最大の失態を犯すことになる。
「バネズってさ・・・・・・割と貧乏くじだよね・・・・・・」
部屋の隅っこで小さくなっている俺に、ダリウスが言う。
お前がいうなお前が。
誰のせいだと思っているんだ、このやろう!
あぁっ!畜生!
いったい俺が何をしたと言うんだ!!
こうなったらやけ酒だ!
シーバーに頼んで一番良い酒を出してもらうんだ!!
酒でも呑まなきゃやってられるかってんだ!
・・・・・・そうして俺は、同じ過ちを何度でも繰り返していく。
酒と嘔吐と、ときどきスカート
御礼リクで頂いた「傷師弟でギャグ」でした!
・・・・・・・・・ギャグ?
うん・・・・・・・・・ギャグの・・・・・・・・・つもり・・・・・・・・・
・・・・・・・・・サーセン;;
私のギャグのセンスのなさを露呈するだけのお話で恥ずかしい!!
こちらの作品はリクエストしてくださった櫻さんのみお持ち帰り自由とさせていただきます。
リクエストありがとございました!!
2011/06/24
※こちらの背景は
November Queen/槇冬虫 様
よりお借りしています。