甘ったるい臭いで目が覚めた。

「・・・・・なんだこの臭いは」
「ん?チョコレート」

顔をしかめながら声のする方へ視線をやれば、手下がもぐもぐ何かを咀嚼しているのが目に入った。
手下の前にあるテーブルには見慣れないものが積み上がっている。
よくよく見れば赤やら青やらいろんな色が入り乱れている。
リボンがかかったりしているものもあった。
昨日まではこんなもの無かったはずだ。
寝ぼけて見間違えているのかと思い、まだ覚醒しきらない頭を起こすため、目元をグリグリと擦る。
やっぱり赤やら青やらレースやらは消えなかった。

「・・・・・・それは・・・・?」

ココは数日前から借りているホテルの一室だ。
いつものように偽名を使って泊まっている。
だから贈り物の類が届くことは無い。
かといって我が輩は日のあるうちに買い物などには出かけない。
つまり、この部屋に何かしら物が増えているということは、この不肖の手下が無駄遣いをして買い込んだということだ。

「だからチョコレート」
「そのありえない量を聞いているんだ」
「今日買ってきたんだけど?」
「ほぉ」

その量を買うにはさぞ金が要った事であろうよ。
してその金は一体何処から捻出されたのか教えて欲しいものだなシャン君?
努めて平静を保ったつもりだ。
だが言っていて、己のこめかみがぴくぴく痙攣するのがわかった。

「まぁまぁ。そんな起き抜けにイライラしなくてもいいじゃん」

糖分足りてないんじゃないの?
手下は自分が手に持っていた小粒のチョコレートを我が輩の口に押し込む。

「美味しいでしょ?」
「・・・・・・・不味くは無い・・・・」
「素直じゃないなぁ」

新たな一個をつまみ上げ、今度は自分の口に放り込む。

「ん〜〜。おいひ〜〜」

至極幸せそうな顔をしていた。
あまりにも幸せそうで、それ以上怒る気も失せてしまった。
諦めの嘆息を漏らす頃には目は十分に覚めていた。
改めてテーブルに目をやる。
ひぃふぅみぃよぉ・・・・・・・・このバカは一体いくつ買ってきたんだ。
よくよく部屋を見渡せば、備え付けの小型冷蔵庫の前にもそれらしい袋が置いてある。
もしかしたら冷蔵庫の中は全てチョコレートに侵食されているのかもしれない。
・・・・・・想像しただけで胸焼けだ。

「どうでもいいがな、いくらなんでも買い込みすぎだ馬鹿者」
「え〜だって安売りしてたんだもん。チョコレートって悪くなんないし纏め買いしても大丈夫だよ」
「安売り?」
「うん。何でかわかんないけど、何処のお店も在庫処分とかいってすっごい安くなってたんだ」

なるほど。
よくよく見れば殆ど全てに50%オフやら70%引きのシールが張られている。

「粗悪品じゃないのか?」
「味は普通だよ。賞味期限も確認したけど半年先とかだったし」
「そうか」
「なんだかわかんないけどコレでしばらくおやつには困らないし、得しちゃった」
「しかし・・・・・・」

綺麗にラッピングされた箱の一つを手に取る。
まじまじと見れば、どうにもおかしい感じだ。

「なんで過剰包装なんだ?」
「さぁ?」
「それにどれもコレもハート型ばかりじゃないか」
「・・・・・言われてみれば・・・・・」

ダレンも手に取ったチョコレートを改めて見やる。
箱の中にあるのはピンク色の小さなハートだ。
試す返す、穴が開くほど見るが、そこに答えなんか書いてはいない。
うーん、と悩んでみるが答えは出ない。
しばらく手にしていたチョコは体温で早くも融け始める。
べたべたになる前に思考することを放棄して疑惑の種を口に放り込んでしまう。

「ま、お腹に入れば形なんか関係ないけどね」

それを言ったらおしまいだ。
我が輩もさっさとくだらないことを考えるのは辞めにした。

「ところでシャン君?今日の朝食は、まさかこのチョコレートだなんて言わんよな?」




季節商品につき、値引きします。







バレンタインなのに甘くない!

本当にバレンタインを知らなかったら萌え!!

とりあえずクレプは本気で知らなさそう。

バンパイアって人間の行事に疎そうだもんなぁ。

2010/02/16





※こちらの背景は Sweety/Honey 様 よりお借りしています。




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