ダリウスの様子は明らかにおかしかった。
おかしかったことは解るのに、何がどうおかしいのかは皆目見当がつかない。

「・・・・・・どうしたんだ?あいつは・・・・・・」

誰に言うでもなく呟いた。
俺はあいつを誉めただけだ。
まさか誉められたことが気に障った、なんて訳ではないだろう。
子供扱いとあいつは言うけれど、実際まだ子供なんだからこればっかりはしょうがないと言うものだ。
それでも、

「謝る・・・・・・べきなのか?」

何が悪かったのかも解らないのに?
そいつは筋が通っていない。
しかしここで手をこまねいていても問題が好転するとは思えなかった。

「まったく、子育てってのも楽じゃないな」

問題が次から次に沸いてくる。
頼んでもいないのに向こうからやってくる。
昔はラーテンのことを笑って見ていたが、実際同じ立場になると笑い事ではないと実感できる。
先の経験者として助言を請いたいところだが、残念ながら出来ぬ相談。
あいつは一足早くに向こうに行ってしまった。
さて、では誰に聞くのが適任だろうか。

「よぉ!バネズ!」

いろいろと候補を頭の中で上げていると、もっとも適任から遠いと判断し、思考の外に追いやっていた人の声が聞こえた。

「お?バンチャ元帥?どうされたんです?先日弟君の所に会いに行くと言って出ていったばかりじゃないですか」
「そいつを連れてきたから帰って来たんだよ。こいつは和平会議バンパニーズ側の中核なんだ。お前もこれから顔を合わせることが多いと思うから、よろしくしてやってくれ」
「・・・・・・弟君が、バンパニーズ?」
「言ってなかったか?」
「初耳ですよ。他の元帥閣下はご存じなんでしょうね?」
「お前が知らないなら言ってねーんじゃねぇか?ま、別にどうでもいいだろ」
「・・・・・・あなたって人は・・・・・・」

別の意味で和平協議は荒れるのではないだろうか。
これから長く続いていくだろう話し合いを思うと頭が痛くなった。

「不貞の兄が世話になっています。ガネン・ハーストです。どうぞよろしく」
「お、あ、あぁ。バネズ・ブレーンだ。よろしく頼む」

差し出された手を的確に握り返した。
その自然な動作に少なからずガネンは驚いたようだ。

「盲目と聞いていましたが・・・・・・どうやらデマ情報だったようですね」
「いや、目は見えてねぇよ。わずかに光を感じるくらいなもんさ。いろんな感覚を総動員して、ようやく普通の生活が出来るってレベルだ」
「そう、なんですか・・・・・・?」
「・・・・・・というか、なんで俺なんかの話を?」

俺は一介のバンパイア将軍。
それも盲目の。
これまでの実績があったからこそ生き延びているだけの、役立たずのバンパイアだ。
今更バンパニーズに着目される特異点など持っていない。

「あなたがダリウスの教育をしていると聞いたのです」
「なんでそんなことを・・・・・・」
「私は・・・・・・、バンパニーズ大王スティーブ・レナードの側近として仕えていました」
「バンパニーズ大王の側近・・・・・・」

それはつまり、あいつのことも・・・・・・。

「ダリウスの父親が大王であったことは既にご存じですね?」
「あぁ、バンチャ元帥から聞き及んでいる」
「あの子が、大王の下でどのような訓練を受けてきたかも?」

そういえば、初めて逢った時の立ち会い。
この年代にしては堂に入った構えをしていたことを思い出した。

「いや、それは聞いていない」
「・・・・・・ダリウスに武器の取り扱いを教えたのは私です。全て大王の指示でした」

・・・・・・なるほど。
バンパニーズ直伝だったというわけか。
通りで綺麗な構えをすると思った。
それに・・・・・・。

「バンチャ元帥。良い弟君をお持ちですね」
「んあ?そうか?」
「えぇ。子供思いの良い指導をされる」
「あの?」
「あいつの太刀筋を見れば解る。余計な癖などなく、ひたすらにまっすぐな、とても実践向きとは思えないナイフ裁きだった」
「・・・・・・」
「あいつの身を案じて、そう指導してくれたんだろう?」

もちろん、癖のない正攻法の太刀に勝るものはない。
ただし拾得するのに何年、いや何十年掛かるか解らないリスクがある。
もしもバンパイア大王が傷ある者の戦の為にダリウスに仕込むのなら、そんなに悠長な訓練などするはずがない。
即戦力とするために、もっと乱暴な太刀になるはずだ。

「・・・・・・太刀筋だけでそんなことまで解るんですか?スティーブには気づかれていない自信があったんですが・・・・・・」
「ん〜、まぁここ数年俺は教えるのが専門だからな。なんとな〜く解っちまうんだ」
「バンパイアには恐ろしい逸材がいるものですね」
「ただの経験測さ。マジで戦えば俺なんてあんたの足下にも及ばないだろうよ。それに、こんな経験は子供の前じゃぁクソ程の役にも立たない」

脳裏をよぎるのは先ほどのダリウスの姿。
結局、何がおかしかったのか未だ見当すらつかない。
・・・・・・この男、ガネンならば何か思い当たる節はあるだろうか?

「ガネン。お前、ダリウスとはどの位の付き合いなんだ?」
「実質会っていた時間はそう多くはありませんよ。バンパニーズは拠点を作らずにあちこちを回っていましたから。ですが、そうですね・・・・・・3年くらいでしょうか?」
「俺より長けりゃ上々だ。実はダリウスの機嫌を損ねちまってな。しかし原因も分からないときたもんだ」
「先ほどの件ですか?」
「見てたのか」
「見えたんです」

細かい部分をガンとして譲らなかった。
神経質そうな奴だ。
どちらにせよ、事情が解っているなら話が早い。
説明の手間が省けた。

「なら聞くぞ?ダリウスはなんで機嫌を損ねたんだ?」
「それは・・・・・・」

口を噤んで。
はぁぁ・・・・・・、と。
深い深いため息を漏らした。

「結局、あの男の尻拭いが私に回ってくるんですね・・・・・・。死んだというのに、とことん面倒くさい男ですね・・・・・・」
「・・・・・・ガネン・・・・・・?」
「この件は私が預かります。元はと言えば、うちのアホ大王のせいですから」

そういって、ガネンはもう一度深いため息をついた。




reminisce







reminderの続きです。もうちょっと続きます。

今回はバネズとガネン遭遇回。

二人で仲良く子育て談義でもしてればいいよ!!

・・・・・・ガネンがスティーブをボロクソ言っているのは許して上げてください。

彼も胃炎で大変なんです。

2011/02/07





※こちらの背景は NEO HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※