「だからそうではないと何度言ったら・・・・・・っ!」
へっぴり腰でナイフを振るうダレンを叱り飛ばす。
こんな風に怒るのが何度目かなんて、もう数えたくもない。
「僕はあんたの言う通りにやってるよ!」
「嘘吐くな。それのどこが我が輩と同じなのだ。我が輩のは、こう。お前のは、こんなじゃないか」
ダレンの手の中のものを目にも留まらぬ早さで奪い取り、何度も見せつけた動きを今一度なぞった。
続けて、ダレンのへたっぴな動きをトレースして見せる。
これで嫌でも我が輩とダレンの動きの違いがわかっただろう。
「は?それのどこが違うっていうわけ?同じじゃん!?」
ところがどうして、ダレンには違いがわからないらしい。
「この節穴め。どうしてこれが同じに見えるのだ。全然違うであろう」
「変わんないよ、あんたの目がおかしいんだ!」
「文句を言うな。きちんと見ろ。いいか、これが・・・・・・こうなるんだ」
「だから・・・・・・こう、だろ」
どうして同じところで同じ間違いを繰り返すのだ。
そこはそうじゃない。
目の前の手本をよく見ろ。
我が輩はそんな動きを一つもしていない。
「違うと言っておろう!何故そうなるのだ!」
思わず声を荒げてしまう。
「どうもこうも、あんたの言う通りにしたらこうなるんだよ!」
それに釣られて、ダレンの声もだんだんと喧嘩腰になっていく。
「そんなわけあるか。お前のやる気がないせいだろう」
「バッカ!あんたの教え方が悪いのを僕のせいにするなよ!」
「いいやお前が我が輩から教わろうとしておらんのだ。お前からは師への尊敬の念というものを常々感じんと思っておったのだ!」
そうだ。
我が輩は師であるシーバーのことをこの上なく尊敬しておった。
師の言動の全てを自分のものにしてやろうと躍起になって観察した。
ダレンからはそういった心意気を一つも感じない。
感じるのは『こんな奴から教えて貰うことなんて一つもない』と拒絶する感情だけだ。
「尊敬?はっ!出来るわけないじゃん。あんたみたいな口だけバンパイアから何を教われっていうんだ」
我が輩の思った通りだ。
「ほれみろ。本性を晒しおって。我が輩の教え方が悪いのではない。お前の習おうとする態度が一番の問題なのだ!」
「というか、僕から尊敬されようとしていたなんて、冗談でも良く口に出来るよね?僕の人生めちゃくちゃにしておいて、何様のつもりだよ!」
あからさまな嫌悪の色。
憎い。
妬ましい。
許さない。
そんな感情が全開になって、言葉に刺を作る。
そうだ、それが我が輩たちの始まりだ。
とても誇ることなど出来ない最低の始まり方をした。
紛れもない、我が輩たちの真実。
「それは我が輩のせいではないぞ!お前がマダムを盗もうだなんて考えなければ、そもそも起きなかったのだからなっ!」
お前は、我が輩が気にしていないとでも思っているのか。
我が輩が忘れるとでも思っているのか。
そんなわけ、あるはずもないと言うのに。
「あぁそうですか!全部僕のせいですか!そうですよ、そうですよ!悪いのは僕ですよ!」
自棄になってダレンはわめき散らす。
だから。
だから。
我が輩はお前の世話を焼かずには居られないんだ。
「悪いと思っているなら言うことを聞け!我が輩とてお前の人生を狂わせたことに責任は感じておる。
だからこうして暴言を吐かれようとも、見放すことなく辛抱強くお前の教育をしてやっているのだ!
感謝などして貰おうとも思っておらん。心の底からの尊敬などもせんでいい!
ただ、お前の、お前自身が一人で生きて行かれるようになる為に、覚えろと言っているのだ!」
「っ!?」
虚を突かれたように、ダレンは言葉を詰まらせた。
「だから、さっさと覚えろ」
「う・・・・・・うん」
先ほどまでの強気な態度はどこへ行ったのか、教えられた通りに丁寧に動きを反復してみせる。
ひとしきり教えたことは覚えていたらしい。
ほらみろ。
我が輩の教え方に間違いなど無かったではないか。
ナイフを鞘に納めると、ダレンはそっぽを向いて唇を尖らせた。
「・・・・・・・・・だったら初めからそう言えばいいのに・・・・・・素直じゃないんだから・・・・・・」
「黙らんかっ!」
自分が言った言葉を脳内で反芻し、恥ずかしくなったのでグーで殴って誤魔化した。
けんか
(そうしてやっと、心の内を吐露できる)
勢い余って恥ずかしいことを口走っちゃえばいいよね!
クレプ伝説で、シーバーが余りにもラーテンらぶ!を陰で口走っていたので
赤師弟はそう言うところを引き継いでいると思うの。
でも、シーバーのように上手く教育出来ないラーテンは
隠しておこうと思った本音をポロリ漏らしてしまううっかりさんな気がするんだ。
2012/06/11
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。