我が輩は少年に道を示した。
選んだのは少年自身。
無理強いをしたつもりはない。
行為の代償は自分で償わなければならない。
誰にも、代わってなど貰えない。
代われないから、我が輩は導いた。
ただ、それだけのことだ。
結果として恨まれてしまったが、我が輩はあまり気にしていない。
そのように導いただけのことだ。
そうなって、しかるべきなのだ。
かつて我が輩も少年だった。
何もわからない、バカな少年だった。
一時の感情に体を支配され、最悪の選択を自ら選んだ。
解る。
我が輩には少年のことがよくわかる。
この少年は、我が輩だ。
少年にとって我が輩は、あの時我が輩の前に唐突に現れたバンパイアと同じだ。
(同じなら・・・・・・)
我が輩は、少年を救えるだろうか。
あのバンパイアのように、少年を導いてゆけるだろうか。
恨まれることを厭いもせず。
嫌われることを露ほども気に掛けず。
ただただ少年の為に心を割いて、生きていかれるだろうか。
(出来るはずだ)
僅かな自信を、確信と思いこませる。
(我が輩は、知っている。どう思い、どう行動してきたのかを身を持って知っている)
目を閉じる。
苦々しい過去を、思い起こす。
(出来る、はずだ・・・・・・!)
導いて見せよう。
(思い出せ、シーバーのやり方を・・・・・・)
彼はどうした?
我が輩はどう行動した?
どんな言葉を投げかけた?
どう返答した?
彼の言葉の裏にはどんな意図があった?
我が輩にどうさせたかった?
考えろ。
考えろ。
我が輩の意図を少年に気づかせるな。
あくまでも少年の意志で選びとったように錯覚させろ。
そう、これは少年の償い。
少年の意志が必要不可欠なのだ。
(シーバーがやり抜いたこと、多くを学んだ我が輩に出来ないわけがない)
ところが、少年の扱いのなんと難しいことか!
少年は頑なに我が輩に心を開かない。
恨まれることは覚悟していた・・・・・・が、これは予想外だ。
少年は我が輩の言葉に耳を傾けようともしない。
それどころか、顔すらまともに見ようとしないではないか。
我が輩とて、師であるシーバーを恨んだことも有ったが、それでもはじめはバンパイアとしての生き方を学ぶため、彼の言葉を脳に刻んだ。
彼に対して、絶対の尊敬の念を抱いていた。
なのに、この少年は違った。
心を開かない。
話を聞かない。
意志の疎通が、全く成り立たない。
「ダレン、朝食はどうした。我が輩が起きる時間に合わせて作っておけとあれほど・・・・・・」
「・・・・・・」
ガチガチに堅くなった古いパンを、こちらも見ずに投げて寄越した。
もちろん目測など有っているわけもなく、我が輩の遙か右前方にパンは着地した。
「ダレン、この服を洗濯しておいてくれ」
「・・・・・・」
川に漬け込んで、そのまま干してあった。
絞った方がまだ濡れが少ないように思えるシャツに震えながら手を通した。
「ダレン、我が輩は寝るぞ。見張りを頼む」
「・・・・・・」
目を覚ますと、我が輩の頭上で眩しく太陽が輝いていた。
ひりひりする肌を三日三晩さすって過ごした。
「ダレン、血を飲みに行くぞ」
「・・・・・・」
「ダレン」
「・・・・・・」
少年は言葉を閉ざし続ける。
「ダレン」
「ダレン」
少年は答えない。
耳の聞こえない生き物になったように、頑なにこちらを向かない。
構うものか。
少年は自ら決断し、自ら命を立つ道を選んだのだ。
我が輩がとやかく口出しすることではない。
───などと、割り切れたらどれだけ楽だっただろう。
気づけば、我が輩は無理矢理に血のボトルを少年の口にねじ込んでいた。
少年が我が輩を突き飛ばし、金切り声をあげる。
どれだけの悪態も、気にならない。
生きてくれれば、それで良かった。
それが叶わぬなら、せめて我が輩の見えないところで死んで欲しかった。
我が輩の願いはそれだけだった。
「我が輩だって、おまえはさっぱりわからんよ」
我が輩が笑うと、少年もようやく笑顔を見せた。
我が輩たちの本当の始まりは、きっとこの時からだった。
シャン君よ
(そろそろ会話を始めようじゃないか)
赤師弟お題2巡目・クレプスリー視点で再挑戦です。
しかし、クレプ視点って何でこんな難しいんだ・・・・・・・・・!
一発目から撃沈ですわー・・・・・・ギャボン!
2012/06/06
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。