珍しくクレプスリーが熟睡していた。

「夜だよ」

揺ってみたけど起きる気配が無かった。
いつもよりも眠りが深いところにあるようだ。

「早く起きないとご飯食べちゃうよ!」

少し脅してみるけどやっぱり反応が無い。
少し「うーん・・・」と身を捩る程度だ。

「起きないの?」

返事の代わりにクレプスリーがもごもごと何かを口にした。
良く聞き取れなかったので口元に耳を寄せてみる。

「・・・・・エラ・・・・・・」

それは僕も良く知る女性の名前だった。
クレプスリーのかつての連れ合い、すなわち奥さんだった人の名前。
黒髪が綺麗で気高い人だ。
しかし―――

「何でエラ?」

どうしてこのタイミングで彼女の名前が出るのだろうか。
もしかしてエラの夢でも見ているのか?

「あんたは今どこにいるのさ?」

問いには答えず、クレプスリーは次々と名前を口にしていった。

「・・・・・ガブナー・・・・カーダ・・・・・バネス・・・・・・・」

バンパイアマウンテンにいたときの面子だ。

「シーバー・・・・・・パリス元帥・・・・・・」

少しだけ畏まった様子でその名を呟いた。
一体どうしてしまったのか?
この人は夢の中でバンパイアマウンテンに舞い戻っているのだろうか?
なんて思っていると

「・・・・・エブラ・・・・・トラスカ・・・・・」

今度はシルク・ド・フリークのメンバーの名前を上げていく。
良く知った名前もあれば、僕が知らない名前もあった。
僕がシルク・ド・フリークに合流する前のメンバーなのかもしれない。
それから何度声を掛けてもクレプスリーは起きる気配がなかった。
少しの間を空けて次々と出てくる名前をベットの端に腰掛けながらそれを聞き続ける。
ミスタートールの名前やエバンナの名前も上がった。
最終的にはタイニーの名前すら出てきた。

でも、僕の名前は最後の最後まで一度だって出てくることは無かった。


それからクレプスリーが起きたのは30分ほどしてからだった。

「・・・・・・・やっと起きた?」
「・・・・・なんで不機嫌なのだ?」
「別に!あんたがさっさと起きてくれないから疲れただけだよっ!」

あれだけの名前が出ておきながら、僕を呼んでくれなかったことに苛立っているわけじゃない。
断じて違う!

「・・・・疲れた・・・・」

起き上がって早々、クレプスリーは盛大な溜め息を吐いた。
それを見て僕は余計に苛立ちが胸の中に広がった。

「あんだけ寝坊しておいてよく言う」

思わず語調がきつくなったが、訂正する気にもなれなかった。

「お前のせいだ。お前の」
「は?」

いきなり名前を上げられて変な声が出た。
なんでそこで僕のせいなんだよ。
言いがかりにもほどがある。

「意味わかんない」
「お前が勝手にいなくなるから我輩はあちこち探し回る羽目になったんだ」
「何の・・・・・・」

と、声を上げてふと思い至る。

「僕を・・・・・探していたの・・・・?夢の中で?」
「そうだ」
「バンパイアマウンテンや、シルク・ド・フリークを回って?最終的にはタイニーのところにまで足を向けて?」
「そうだ・・・・・・って、何で知っている?」

不思議そうにこちらを見やる。
なんでって、そりゃぁあれだけ言っていたらね。
でも本人は名前を呟いていたことに当たり前だけど気づいていないようだった。

「何でだろうね!」

とたんに胸の中の煤けた気持ちが洗い流された。
ちょっとだけいい気分だ。



寝言
しょうがないから許してあげてもいいよ?)






どの時期の話なのか?時間軸がわからない。
適当に妄想していただけると助かります。
しかしクレプスリーは夢の中でもパパをしている。
いつだってダレンが心配なんですねわかります。
2010/07/10




※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※