言葉にしなければ伝わらないことというのは、存外多い。
近親者への感謝というものはそれの最たるものと言っても良いくらいだ。
暗黙の了解に頼り続ければいつかしっぺ返しを食らうぞ!と言ったのは誰だったか?
もしかしたらそんなことを言った人はいないかもしれない。
それでも大抵の人は痛感している事実だ。
自身が伝わっていると思っていることの半分も他者には伝わらない。
それどころか勝手な曲解をされていることだって多い。
だから大切なことは言葉にする。
単純にして明解な答え。
簡単なようで、それはとてつもなくハードルの高いものでもあった。
ハードルを上げているのは己のプライドだとかそんなもの。
自分で自分を苦しめている。
僕はそんなマゾヒストなわけじゃないのに、どうして自分を追い詰めなくてはならないのだろう。
まったくもって不可思議な精神構造だ。
そんな風に創った神様とかいうのをぶん殴ってやりたくなる。
素直になればいい。
思っていることをそのまま吐き出せばいい。
『ありがとう』と
『感謝している』と
たったその一言でいい。
恥ずかしがることなんて無い。
単語を口にするだけ。
それだけでいいんだ。
「あの・・・・・・さ、クレプスリー・・・・・・」
つ、と前を歩くクレプスリーのマントを引く。
控えめに少しだけつまんで引き止める。
「・・・・・・・なんだ?」
「えっと・・・・・・その・・・・・・」
さぁどうしたダレン・シャン!?
こんなところで怖気づくな!
たった一言を言うだけだ。
何をためらうことがある。
素直な気持ちを素直に吐き出せ!
「いつも・・・・・迷惑掛けて・・・・ごめん・・・・・。見捨てないでくれて、ありがと・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
やっとの思いで搾り出した言葉だというのに、クレプスリーは目を見開いて身体を硬直させてしまう。
「何だよ・・・・どうかしたの?」
「いや・・・・・」
歯切れ悪くもごもご。
視線を外して明後日の方を見やって、ぽつり。
「明日は台風か・・・・・?」
それも冗談めかしてなんかじゃなく、真剣な表情そのものでそんなことを言う。
せっかく!
折角僕が普段言えていない事をちゃんと伝えてあげようと頑張ったのになんて仕打ちだ!
人の感謝は素直に受け入れろってママに習わなかったのかこのハゲ親父っ!!
「それとも・・・・・・まさかまた何か粗相をしたのではあるまいな?」
至極真剣にクレプスリーは問うてきた。
何でそうなるんだよっ!
ただ、純粋な気持ちで「ありがとう」を伝えただけなのに!
何であんたは疑うことしかしないんだ!
このバカっ!
あんぽんたんっ!
ウスラトンカチっ!
「さぁ、怒らないから素直に言ってみろ。何をした?」
だから!さっきから素直に言っているじゃないかっ!!
「・・・っ!あんたのことなんか知るもんかっっ!!」
もう絶対あんたには言ってやらないから!
ばかばかばかっ!
嫌いだ!
(嫌い嫌い大嫌い!―――嘘、ホントは大好き)
たまには素直になろうと思ったのに上手くいかずに空回りのダレン。
普段のツケが溜まっていたんですね。
時たま思い出したように素直になると、まるで狼少年のような扱い。
でもホントはクレプスリーはわかっていたりする。
あしらったのはクレプスリーなりのジョークとかユーモアとか照れ隠しのつもりだったんだよ。
完全駄々すべりの空回りだけどな!
2010/07/09
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。