自分の持ち物には名前を書いておけ、というのは果たして万国共通の概念なのだろうか?
少なくとも僕にとってそれは常識だ。
半バンパイアになってからだってそれは変わらない。
新しく買ったものには小さく名前を刻んでいく。
「なんだ、わざわざ新しいのを買ってやったというのに、いきなり落書きしおって」
それを見ていたクレプスリーは落胆の声を上げた。
クレプスリーの中には名前を書くという習慣はどうにも根付いていないようだ。
「落書きじゃないよ」
「嘘をつけ。このたわけが」
「ほんとだって。名前を書いてるだけだよ」
「名前?」
「そ」
マジックを片手に、その手は止めない。
不思議そうに手元を覗き込んでくるクレプスリーだったが、眉間に大きく皺を寄せて首をひねるばかりだ。
「やっぱり落書きではないか」
「文字が読めないあんたにとやかく言われたくないね」
「何だと!?」
確かに僕は字が上手い方じゃない。
それに紙に刻むのと違って書く場所が必ずしも平面ではないから余計だ。
それでも文字が読めないクレプスリーに『落書き』と評されるのはどうにも解せない。
読めないくせに何でそれを落書きだって思うんだよ。
胸の中に湧き上がった苛立ちの所為で不必要にクレプスリーをからかってやりたい衝動に駆られた。
手に持ったマジックをクレプスリーの方に向けてニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてやった。
「何ならクレプスリーの分も書いてあげようか?あんた読み書きできないもんね」
「余計なお世話だ!名前くらい書ける!」
「名前だけは、の間違いだろ?」
「うるさいっ!」
「ほらほら、遠慮しなくって良いから〜」
「しとらんっ!名前なんぞ書かなくて良い!」
「なんで?無くなった時に誰かに取られたら大変じゃない。やっぱり自分のものにはきちんと名前を書いておかないとね」
嫌がるクレプスリーにのしかかり、取り押さえ、マジックを走らせる。
「こらっ!?お前どこに名前を書く気だっっ!!」
「だから、自分の持ち物だって。ほらほら動くと名前が書けないんだけらじっとしててよ」
「するか!いい加減にしろ!」
僕の首根っこを掴んで無理やり引き剥がし、ぽいっと投げ捨てクレプスリーはすぐさま鏡の前に飛んでいった。
テーブルに備えられたティッシュでごしごしと擦って落とそうと試みているが、残念ながらこのマジックは油性だ。
そんなに簡単に落ちやしない。
「どうしてくれるんだ!このバカが!!」
「だって簡単に落ちたら意味が無いじゃない」
「くそっ!」
着ていたコートをばさりと脱ぎ捨てた。
「どこ行くの?」
「シャワー浴びて落としてくる!!」
「落ちちゃったらまた書いてあげるからね」
「書くなっ!」
シャツを僕の鼻っ面めがけて投げつける。
くそっ!ともう一度悪態を吐くと、クレプスリーはシャワールームに消えていった。
その一瞬、僕が首筋に刻んだ 『Darrn Shan』 の文字がちらりと視界に映り、僕は満足感に満ち満ちた。
しるし
(コレは僕のだから、皆手を出しちゃだめだよ?)
なんか赤師弟というよりもダレ→クレって感じ?
いやいや、ダレンがファザコンなんだよきっと。
クレプスリーは皆のアイドル。
取られたくないので私が先に名前を書いてやる・・・・・・っ!かきかき。
2010/07/05
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。