「クレプスリーのバーカ!」
「・・・・・・・・」
「クレプスリーのハーゲ!」
「・・・・・・・・」
「クレプスリーの女ったらしー!」
「・・・・・・ダレン」
クレプスリーが静かに振り返った。
「いいたいことがあるならはっきり言ったらどうだ」
それをねちねちねちねちぐちぐちぐちぐち。
うっとおしくて仕方がない。
心底うんざりした表情でクレプスリーはそう零した。
僕としてはむしろその態度に余計にカチンときた。
絶対さっきのことを反省なんかしていないよこのおっさん!
「べっつに〜。大切に取っておいた最後のお酒をあんたが勝手に飲んだことなんて別にこれっぽっちも気にしてないし〜」
「気にしていない、といいつつずいぶん具体的だな?シャン君」
「そう?気のせいじゃない〜?」
「第一その件に関してはさっき謝っただろうが」
「謝ったって無くなったものは帰ってこないんだよ!」
そう、僕が機嫌を損ねているのはこのおっさんの粗忽な態度のせいだ。
僕が大切に大切に取っておいたとっておきのお酒をこのおっさんが勝手に飲んでしまい、あまつさえ最後の一滴まで綺麗に飲み干してしまったのだ。
他の人が間違って手をつけたりしないよう、ボトルにきっちり名前まで書いておいたのに!
『我輩は文字が読めんからな。なんと書いてあるのかわからなかったのだ』なんて言い訳までして!
あぁ!もう最悪!
「そんなに飲みたいならまた買ってくればいいだろうが」
「ばっか!アレどこで買ったと思ってるんだよ!」
「遠いのか?」
「そうだよ!4ヶ月も前に立ち寄った街で買ったんだ」
「ふむ・・・・・」
「あーっ!もうホントにすっごい楽しみにしてたのにばかばかばかばか!」
思い返したらますます悔しくなった。
すぐに飲み干してしまうのがもったいなくってちびりちびり大切に飲んでいたんだぞ!?
記憶の中の味を回想したら余計に欲しくなってしまう。
「ならば買いに行くとするか」
ごく当たり前の回答だ、といわんばかりに普通に。
クレプスリーが言ってのける。
は?
今なんて?
「シルク・ド・フリークにも長く留まったしな。そろそろ離れるのにもいい頃合だろう。行き先があるならちょうどいい」
「え?ちょ、いいの?」
「今は休業期間だしな。次の公演で外れても支障はあるまい」
そうと決まればトールに断りを入れねばなるまいな。
どれ、トールのトレーラーに行ってくるとするか。
その間にお前は出発できる準備をしておくんだぞ。
あぁ、どのくらい離れることになるかもわからないから挨拶しておきたい奴には声を掛けておけ。
日が暮れたら出発するからな。
矢継ぎ早に言葉を紡いで、自分はさっさとコートを頭から被ってトレーラーから出て行ってしまった。
僕はといえば「え」とか「へ」とか、間抜けな声を上げることしか出来なくて。
気がつけば一人ぽつんと取り残された。
一瞬何がどうなったのかわけがわからなくて放心したが、次の瞬間には部屋中をあっちこっちひっくり返して旅の準備を大急ぎで始めた。
びっくりしたけど、驚いたけど。
久しぶりにシルク・ド・フリークの外に出るかと思ったらドキドキが止まらない。
「えっと!とりあえず折りたためる鍋は必要だよ。・・・・アレ?どこにしまったっけ。
あ、血のボトルも余分に持っておかなきゃ!あと毛布も必要だし、それよりも街に行くのにこの格好じゃまずいよな!?
トラスカに頼んで洋服出してもらって・・・・・うわぁっ!日暮れまでになんて準備整わないよっ!!」
ばたばたと忙しく走り回っているうちに、そもそも話しのいきさつはなんだったかも思い出せなくなったいた。
けんか
(そしていつも終わりはうやむやに)
時系列的には3巻後〜4巻前くらい?
二人はけんかしてもきちんとした仲直りってしない気がする。
本気で怒っている時は別だろうけど、本気のけんかをそもそもしないイメージ。
じゃれあいのようなどうしょうもないことでけんかして、二人してけんかしたことを忘れている感じ。
2010/06/26
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。