夕暮れ時になってもぞもぞと起き出す。
まだ眠いまぶたを擦りながらも、身体に鞭打って誘惑の塊である寝具をさっさと片付ける。
代わりに鍋やら何やらを取り出して「朝ごはん」用にお湯を沸かす。
さてさて、今日は何を作ろうかと思案していると僕よりもわずかに寝坊したクレプスリーが向こうの大地に消えかかった夕日を眩しそうに見ながら身体を起こす。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
「ご飯どうしようか?」
「それを考えるのも手下の仕事だ」
なんて実のない会話で終わってしまう。
返答にムカっとした僕は、今日の朝食は冷え切ったパンとわずかに残っていたコンソメで作る味の薄いスープに決定した。
ただし僕の分だけはこっそり火の傍で暖め、塩コショウで味を調えるくらいのことはしてやった。
まっずいご飯を食べるのはあんただけで十分。
むっつりとした顔で、それでいて内心はげらげら笑いながら、スープの入った皿を押し付け投げつけるようにパンを手渡す。
手渡された自分のものと、僕の横に置いてあるものを見比べて。
・・・・・はぁ・・・・っ・・・・・、と深々と、そりゃぁもう深々と溜め息をついてから。
拳骨が一発飛んできた。
「いったぁっっ!」
「やることが姑息なんだ、お前は」
殴られた頭を押さえている隙に、クレプスリーは自分の分と僕の分をそっくりそのまま取り替えてしまう。
「あーーっ!!」
「なんだね?取り替えたら何かまずいことでもあるのかね?」
「・・・・・・・・べつに・・・・・・・」
まさか素直に「あんたの分は不味く作った方!」なんて言えるわけもなく、しぶしぶ冷たいパンとほとんどお湯に等しい薄さのスープを胃に流し込んだ。
クレプスリーはそれを横目にニヤニヤと、まるで面白いものでも見るかのように眺めながら、これ見よがしに暖かいパンをほふほふ頬張っていた。
「我輩を出し抜くつもりならもう少し上手くやるんだな」
「・・・・・なんのこと・・・・・?」
「しらを切るつもりならそれでも構わんがな」
そりゃぁしらを切るしかないじゃないか。
わかってってこの男はやっているのだ。
何たる性悪だ!
ぶつくさ文句の一つも言ってやりたいけれどそれすらも許されない状況が腹立たしい。
美味しくない朝食を無理やりに詰め込んで、クレプスリーが食べ終わるのを待ちもしないでさっさと片付けだす。
くそ!
次こそはあんたにまっっずいご飯食べさせてやるんだから!!
クレプスリーを出し抜くには2手も3手も先を読んで仕掛けてやらなきゃダメなんだ。
あーでもない、こーでもない、と一人会議を開催。
ようやく頭の中で昼食時の作戦がまとまりかけた頃合に。
「では行くとするか」
パン屑を払いながらクレプスリーが立ち上がる。
それに習って僕も荷物をかばんにがさっと詰め込んでから立った。
最後に焚き火の跡に足で砂をかけてやる。
(お昼には目にもの見せてやるっ!)
心の中で静かに報復を誓うのだった。
・・・・・・残念ながらこの報復が果たされるのはお昼でもなく夜でもなく、次の日の朝でもなかったが・・・・・・。
いつものパターン
(そうやって僕らの日々は過ぎていく)
ダレンの報復はわかり易過ぎてクレプスリーにはいつもばればれです。
ちなみに報復は『結局不味いご飯を食べているのはいつも自分じゃないか!』と気がつくまで続きます。
ダレンは時々鋭いことを言うけど基本は間抜けなのがいい。
2010/08/31
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。