ダレン・シャンも
ラーテン・クレプスリーも
スティーブ・レナードも
サム・グレストも
ガブナー・パールも
デビー・ヘムロックも
カーダ・スモルトも
エラ・セイルズも

全部が全部、嘘っぱちの名前。
本当の名前なんて一つもない。
どうしてかって?
それは僕がそうしたから。
『僕』の残した日記に書かれた名前を記すわけにはいかなかった。
だから僕は捏造した。
僕の名前も。
皆の名前も。
全ての名前を。
作り上げ、あたかも初めからそうであったかのようにこの世にさらした。

本当を知っているのは、この僕だけ。
彼の本当の名前を知っているのは、この僕だけ。
僕だけが呼ぶことを許された、ただ一人。

正確な意味では、彼の名前を呼んでいる人は沢山居る。
この物語に登場した仮名の彼らは、彼の本当の名前を今この瞬間もこの世のどこかで呼んでいるはずだ。
でも、この本を読んで。
それでいて、それが自分のことだと理解して。
その上で彼の名前を呼べるのは。

僕だけだ。

そういえば『僕』は彼のことをいつもファミリーネームで呼んでいた。
日記の中ですら、『僕』は彼のことをファミリーネームで記している。
そこにこだわりがあったかどうかは『僕』でない僕にはわからない。
ただ、想像ならできる。
きっと彼にとってはそう呼ぶことこそが特別の証だったのだ。
僕が本当の名前で記さなかったように。
僕にとっての、『僕』にとっての、特別な名前だったから。

誰にも、呼ばれたくなかったんだ。
呼んでいいのは、僕と『僕』だけ。

でもわかった。
やっぱり、彼は僕の人じゃなくて、『僕』の人だから。
呼んでいいのは『僕』だけなんだ。

だからせめて最後に一度だけ。
彼の名前を呼ばせてよ。

「さようなら、××××××」

小さく小さく、囁くような声で、僕は彼の名前を呟いて『僕』の日記を閉じた。



ファーストネーム
(本当の貴方を呼ぶ、最初で最後)






つい忘れがちになるけれど、ダレンの登場人物は皆仮名なんですよね。

つまりクレプの名前もクレプではないんですよね。

本当はなんて名前なんだろ?

今回のお題は自分の中ではかなり変則的解釈です。

ファーストネームというよりファースト コール ネームって感じ。

2010/08/29






※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




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