酒瓶を片手に、クレプスリーのトレーラーへと足を向ける。
いつもは気が進まない場所なのに、足取りは思いのほか軽い。
理由は、なんとなく察しはついている。
でもソレを認めるのはなんとなく癪なので認めてやらない。
ノックもせずにトレーラーに踏み入る。
予想通り、差し込む日差しに部屋の主が顔をしかめた。
嫌がらせにドアを大きく開け放ってやろうかとも思ったが、そいつは少しばかり可哀相なのでやめることにして、素早く日の光を締め出す。
「・・・なんだ?」
「別に」
「用もないのに来るな」
「そう言うなよ。折角お酒もってきて上げたのに」
「・・・酒?」
「そ」
片手にぶら下げていた瓶を顔の高さに掲げて見せる。
瓶の中でチャプン、と液体が踊った。
「どういう風の吹き回しだ?」
「ん?別に深い意味なんて無いけどさ」
勝手に部屋の中を探ってグラスを二つ取り出した。
少し汚れていたから服の端っこでキュッと拭ってやった。
半ば放るようにしてグラスを渡せば、わずかに躊躇した後、クレプスリーは無言で差し出す。
トクトク・・・と静かな音でもってグラスが満たされると、クレプスリーがやはり無言で瓶をむしり取り、今度は僕のグラスに注いだ。
そうして声も無くチン、とグラスを打ち鳴らす。
「で?」
「ん?別に何にも無いってば」
「ならなんでいきなり酒なんぞを持ってきたのだ?」
「ん〜・・・・強いて言うなら・・・・今日僕が初めて血を飲んだ日だから?」
「そう・・・・・なのか?」
「そうだよ」
多分、と心の中で付け足した。
そんな日にちなどいちいち覚えているわけが無い。
でもクレプスリーはそれ以上言及しようとはせずにグラスを空けた。
手酌で二杯目を注ぎ、それも一息で空けてしまう。
「・・・まぁ、そういうことにしておいてやろう」
「そりゃどうも」
「では仕切り直すとするか」
言われて僕もグラスの中身を空にしてからクレプスリーの前に差し出すと、これでもか!ってくらいになみなみと注がれた。
自分のグラスも酒で満たすとコホン、なんてわざとらしく咳払いして高らかに告げた。
「では、ダレン少年の新たな一歩を祝して!」
「「乾杯!!」」
記念日
(ただの乾杯の口実だと、お互いに知っている)
なんでもないありふれた毎日に乾杯する。
バンパイアってそういう生き方をしていると思うんだ。
2010/08/07
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。