デビーから手渡されたソレに、僕はゆっくりと袖を通した。
事態は切迫していたけれど、どうしてか動作一つ一つが緩慢になる。
何かを想い出していたのかもしれない。
あんたとの数え切れないほどの想い出を。
最後になるかもしれないと、どこかで感じていたのかもしれない。
あんたを想い出せる、最後の時だと。

周りの喧騒などすっぱりと切り離してしまったかのように、この瞬間だけ、時間が巻き戻る。


初めてこれに袖を通したのはいつのことだったか。
僕がバンパイアになってからそう時間が経っていない時のことだ。
あの人のことを少しだけ理解して、少しだけ好きになれた時。
僕はあの人に隠れてちょっとだけ袖を通したことがあった。
そうすればもっとあんたのことがわかるかと思ったから。
まぁ、実際はそんなことあるわけもないんだけど。
しかも当時の僕には、ソレはとても似合っているなんて言えなかった。
どんなに腕を伸ばしても指先は袖口から顔を見せることはなかった。
背伸びをしたって裾はずるずると床を擦ってしまった。

次はあんたが死んだ後だ。
あんたが死んで、僕自身も殺しかけてしまっていたあの時。
トラスカが僕に着させてくれた。
僕を救うために。
あんたの死を救うために。
何もわからずに、何も感じずに着たソレはただの布切れに過ぎなかった。
死んだ虚ろの目には、何の感慨も映らなかった。
厭々ながらに見せられた鏡に映る自分の姿。
かろうじて背丈はそれなりになったけど、やっぱり袖は長かった。
純化をして、あんたに追いつけたと思っていた。
でも、ほんの少し、あんたとの距離が縮んだだけで。
やっぱり、僕には似合っていなかった。


ポツリポツリと思い出す。
ゆっくりだったソレも、次第に激流のように巡り出し、そして静かになっていく。
最後に脳裏を過ぎったのは、コレを羽織ったあんたの姿だ。
認めたくはないけれど、あんたは僕の目標だった。
あんたのように、コレが似合うバンパイアになりたかった。
どうかな?
今の僕には、似合っているかな?
二度目の純化を経て、身長はきっとあんたと変わらないくらいになったよ。
袖口だって今は余ったりなんかしていない。
まるであんたが着ているみたいに、着こなせているだろう?
ねぇ見てる?
僕はこんなにも大きくなったんだよ?
ぶかぶかだったコートも、今じゃ僕のためにあつらえたかのようだろう?

ほら・・・・なんか言ってよ・・・・・
いつもの悪態だっていい。
こんな時に何を考えているって、叱ってくれたっていい。
だから・・・・なんか言ってよ・・・・・
お願いだから・・・・・

あんたの一言があれば、僕はどんな運命だって切り開ける気がするんだ。
だから、お願い。
たった一言。
たった一言でいいから・・・・



ちょうどいい
(ほら見てよ。似合うって言ってよ・・・・・)






・・・・・なんだか言いたいことが全然まとまらなかった・・・・・・

やばい・・・・コレは後で書き直しをするかもです・・・・・

2010/08/06




※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




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