エラが死んだ時、クレプスリーは大きな声を上げて泣いた。
部屋に一人篭り、誰の耳にも届いてしまうくらい大きな声で、泣いた。

僕だって悲しかった。

カーダが死に。
ガブナーが死に。
エラが死んだ。
他にも多くのバンパイアが犠牲になった。
それ以上に沢山のバンパニーズが犠牲になった。
ピュロスの勝利になるのを防ぐための作戦だったのに、結局僕たちは取り返しのつかない犠牲を払ってしまったのかもしれない。

けれど悔やんだってもう遅い。
起こってしまった事、起こしてしまったことは取り返せない。
だから僕は鮮明に日記に『記録』した。
彼らがどう生きて、どんな想いで闘ったのかを。
僕が知っているなんて人生の中のほんの一瞬でしかないけれど。
それでも彼らの想いの断片を少しでもこの世に留めて置けるよう、思い出せるだけ思い出し、出来うる限りを日記に記した。
今までに書いたどんな内容よりも長い日記。
まるで一つの物語のよう。
長い長い日記を書き上げて、ぼんやりと僕はソレを眺めていた。
悲痛な泣き声をバックミュージックに、哀しくも気高く散っていった命の物語を、何度も、何度も記憶の中で反芻させた。


明け方頃になって、ようやくクレプスリーの泣き声が静まった頃。
僕はもう一度ペンを取る。
もう一つだけ、書いておきたい物語があったんだ。
ただ、この物語はなんて書き出したらいいのかわからない。
ぐるぐると言葉を捜して迷っているうちに、何時間も経過してしまった。
やっとしっくり来る言葉を見つけてペンを滑らそうとした時

「ダレン、時間だ」

僕の裁きの始まりを告げられた。
厳しい顔をした衛兵と心配そうな表情のクレプスリーが扉の向こうに並んで立っている。

あぁ、どうやらこの物語を書く時間は無いようだ。
せっかく言葉が見つかったのに残念で仕方ない。
僕は素直に声に従った。
手にしていたペンを置き、日記は万一に備えてハーキャットに預けた。

少しでも時間を稼ぐように、僕たちはのろのろと元帥の間に向かった。
衛兵は何か言いたそうだったけれど、僕らの方を見るだけで言葉には出さなかった。
まるで絞首台にでも登るような心境で長い廊下を歩く。
ああ嫌だ。
行きたくないよ。
緊張が行き過ぎて胸の辺りが痛んだ。

「安心しろ、何があろうと我輩が助けてやるとも」
「ダレンに妙な真似は・・・・・絶対させない・・・・」

心強い二人の声。
揺るぎのない決意を固めた声。
自分よりもずっと偉い元帥にだって、今の二人なら食って掛かる勢いだ。

その時、僕はさっきの言葉を書き記せなくて良かったと安堵した。
そんな言葉は、必要なかったんだ。




(僕が死んだら、泣いてくれますか?)







6巻元帥昇格直前のお話。
もしも、例えば。
このときダレンが死んでいたとしたら、クレプスリーは泣くんだろうか?
それとも泣くことも出来ないのだろうか?1
2010/06/26




※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




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