思いっきりぶん殴られた。
なんて女だ!
子供相手に手加減もせずに横っ面を張り倒すやつがあるか!?
まぁ、確かに僕も本気でぶん殴りにいったからおあいこといわれればそれまでなんだけど・・・・・。
でもやっぱり納得いかない!
大人の対応ってやつがあるだろう?普通!
ここはなんか、こう、僕に華を持たせるべきところだ!
僕に出し抜かれたあたりで諦めて素直に握手しとけってんだ!

落下するホンの数秒の間に僕は、主人公としてあるまじき扱いに対して胸中で暴言を吐き続けた。


幸いにもわずかな時間気を失うのみで済んだようだ。
ずきずきと痛む頭を堪えながら、僕は彼女に握手を求めた。

・・・・らしい。


というのも、実のところほとんど彼女に対する執念だけで起き上がっていたので、意識なんてあってないようなものだった。
なのでどんなやり取りがあったかなんてほとんど覚えていない。
周囲の者の声から、僕が彼女と握手をした事実があることは確認した。
ただ僕自身にはやっぱり実感が無い。

「何を辛気臭い顔をしておるのだ?」
「なんでもない」

愚鈍なあんたに僕の繊細な気持ちがわかってたまるか。

「折角の総会だというのに」
「んなこと言われたって・・・・・皆で酒飲みながら笑いながら殴りあう危ない集団だろ?」
「まぁ・・・・・・否定はせんがな」
「事実だし」

手に持ったエールビールを一口啜った。
僕にはこの美味しさというものが良くわからない。

「あんたは娯楽の間に行かなくていいの?」
「いや、今まで居ったのだがきりが無くて一度戻ってきたのだ」
「ふーん」
「だが多分すぐに戻ることになるだろう。声を掛けられたら断らない、それがルールだからな」
「ふーん・・・・・・じゃぁさ」

残っていた中身をグイと一気に煽る。
しこたま飲んだ後だったので頭が一瞬ぐらりとした。

「僕と、勝負しようよ」
「は?」
「誘いを受けたら断らない。だろ?」
「・・・・いや、そうだが・・・・・・」
「なら娯楽の間にゴーゴーゴー!!」
「おっ、おいっ!!」

OKの返事も聞かずにクレプスリーの手を引いた。
酔ってグワングワンする頭に気がつかない振りをして走り出す。
クレドン・ラートの間を出るところでエラの姿が目に入った。
ついでだから、エラも引っ張っていこう!

「エラも娯楽の間に行くよ!」
「え?ちょ、なんなのよ!?」
「僕と勝負するの!」
「なんで私があんたと」
「逃げるの?」
「・・・っ、ふざけるんじゃないわよ!あんたみたいなガキ、一ひねりしてやるわ!」

売り言葉に買い言葉。
すっかり戦闘モードに入ったエラを見てクレプスリーがこっそり溜め息がつくのが見えた。
何をやっているんだか・・・・といった様子だ。
そんな様子など見てみぬ振りをして僕は二人の手を引いて走り出す。
右手にはクレプスリー。
左手にはエラ。
そういえば昔にもこんな風にしたことがあるな、なんて思いながら。
あ、そういえば今この状況ってエラと手を繋いでいるな、なんて思いながら。

よくよく考えれば、僕がしたかったのは戦闘でも握手でもなくて。
こうやって手を繋ぎたかっただけなのかもしれない。

まるでママのぬくもりに触れたみたいな気持ちになった。
思わずほくそ笑んだ僕を見て、クレプスリーとエラは顔を見合わせて、苦笑した。



エラと
(こんな感覚、以前にも確かにあった)






三人がそろえばそれはマジ親子だよね。

もう三人で家庭を築いてしまえ!

2010/07/23




※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




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