考える。
父さんのこと。
母さんのこと。
妹のこと。
沢山の涙に包まれてしまった僕の家族のことを。
考える。
置いてきてしまった一人の親友のことを。

眠れない日が長く続いた。
それこそ、半バンパイアになりたての頃なんて本当に眠ることなんて出来なかった。
自業自得のこととはいえ、信じられるものなんて何もなかった。

化け物に成り下がったような気がして、夜が来るのが怖かった。
皆にさげすまれているようで、昼が来るのが怖かった。

一時だって、僕の心が休まる時なんてなかった。
心身ともに疲弊して行き、そのまま死んでしまえたらどれだけ楽だっただろう。
家族への背徳感も無く、
親友への裏切りも無く、
己の罪の明かしてこの命を差し出せたならどれだけ簡単なことだっただろう。
自分自身を許すことが出来ない、なんてことにはきっとならなかったはずだ。

今日も、僕は膝を抱えて小さくなる。
眠くは無い。
けれども寝た振りだけはしておかないとこの男はなんだかんだと五月蝿い。
眠れない目を無理やりとじる。
木陰にいるはずだけど、まぶたの裏側が赤い。
やっぱり、眠れやしない。

ぼんやりと、何を考えるでもなく薄目を開けた。
あの男の姿が視界に入った。
ぶつぶつと何かを唱えている。
なんと言ったのかまでは聞き取れない。
ちゃんと聞こうとしなかったからだ。
あの男が何を言ったって僕は耳を貸そうとはしなかった。
僕を化け物にした化け物の話なんか聞きたくも無い。
でもその時だけは僕の胸もちくりと痛んだ。
どうしてそんな顔をしているのかもわからないけれど、眉間に皺を寄せて少しだけ寂しそうに見えた。

しばらく逡巡した後、男は僕の隣に腰を下ろした。
どうしてわざわざ僕の隣に座るんだ。
もっと向こうで寝ればいいだろ。
思いはしたけれど、それを口にするだけの元気がその時の僕にはもう無かった。
なすがまま、されるがままに男の行動を見ていた。
触れ合うくらい近くに男は座った。
ちょっと身体を傾ければ触れるくらいの距離だ。
男は愛用のマントをばさりと広げると、僕の頭の上から被せた。

「・・・・・・眠るなら、もっと日の光が少ないところに行け。・・・・・死ぬぞ」

僕は半バンパイアだ。
日の光を浴びたってどうってことはない。
むしろ日の光が危険なのはあんたのはずだ。
それは僕も知っていた。わかっていた。
わかっていてなお、僕はこの場所で眠ることを選んだ。

「・・・・・・・・・・・あんたって何を考えているのかわかんない・・・・・・・」
「お前のほうが何を考えているのかわからんよ」

それでも、あんたは僕を一人にはしない。
命に関わるかもしれないというのに。

ぼんやりとした頭の中で、この男だけは、信じてもいいのかもしれないと思った。

少しだけ、僕は体重を傾ける。
信じた分だけ、傾けてみる。
あんたは驚いた声を上げたが、その体重をしっかりと受け止めてくれた。
叱りもせずに、黙って受け止めてくれた。
僕はもう一度しっかりとまぶたを閉じる。

次に目を開いた時、あんたがまだそこにいてくれたのなら。

その時はきちんとあんたのことを信じてみよう。



就寝
(当たり前のように、あんたは隣にいてくれた)






クレプスリーが信じられなかったダレン少年はあの手この手でもっていろいろと試してみるんだ。
クレプスリーも弟子に信用して欲しくて不器用ながらもいろいろと頑張ってみている。
不器用な二人の不器用な寄り添い方。
2010/07/16




※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




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