いつも通りの作業をこなしていると、それを背後から見守っていたハーキャットが申し訳なさそうに声を上げた。
「ダレン・・・・・・」
「ん?どうかした?」
「・・・・私は人の趣味をとやかく言うつもりは無い。嗜好は自由だからな」
「うん?」
「だがな、正直・・・・・これはどうかと思うぞ?」
「これ・・・・・って?」
「この部屋のことだ」
言われて部屋という名のシルク・ド・フリーク巡業中の個別テント内をぐるりと見渡す。
左右の支柱を使ってつるしたハンモック。
少しばかりの旅の荷物。
その他は折を見ては買い集めた小物類がいくばくか。
後は私物ではなくショーに必要な備品を預かっているだけだ。
「何か・・・変?」
荷物だって大して多くないし、少ない持ち物だって取り立てて不思議なものがあるわけじゃない。
そりゃぁ昔僕がまだ人間だった頃ならば、部屋中を飾る蜘蛛のポスターとかがあった。
机の中でこっそり飼った蜘蛛がいた。
それらは理解ない人から見れば精神を疑うほどのものかもしれない。
だが今はそんなものは何も無い。
一体ハーキャットが何に対して言っているのか、皆目見当がつかなかった。
「今は取り立てて変なもの持ってないよ?この小物だって、シャンカスたちが欲しいって言うからコンプリートまで手伝ってあげてるだけのやつだし・・・・」
手にしたのは街で売られているビニール製の小さな人形玩具。
最近子供たちの間で流行っているのだそうだ。
しかし子供たちのお小遣いではなかなか数を集められないらしく僕に泣きついて来たのだ。
僕はそんなにお金を使う必要を感じていなかったし、折角なら、と童心に還ったつもりでシャンカスたちと玩具集めをしているに過ぎない。
次々と集まっていくのはそれなりに面白いが、そこまで真剣に集めているわけでもなかった。
「違う。そんなことじゃない」
「?じゃぁなんだよ?」
「この部屋の色だ」
「色?」
言われてもう一度テント内を見渡す。
・・・・ふむ・・・・・・
言われてみれば・・・・・・・
「・・・・・ちょっとだけ赤が多いかな?」
「これのどこがちょっとなんだ」
手始めに、テントの底面である床には毛の長いシックな風合いの赤じゅうたんが敷かれている。
続いて旅の荷物はまとめて赤い箱にごそっと収めてある。
シャンカスたちと集めている小物は、自分で塗装した赤いショーケースの中に整然と並んでいる。
ショーの備品は私物と交わらないように天井からつるした赤いカーテンの向こうとこっちできちんと分けてある。
そのほかにも最近新しくしたマグカップやら、日記帳やら・・・・・・
気がつけばこのテント内には赤に支配されていた。
新人のフリークが僕のテントを訪れたら、必ず悲鳴を上げるレベルだ。
実はシルク・ド・フリーク内で『血まみれ部屋』などという異名をつけられていたりする。
「少しくらいは、と大目に見ていたが・・・・・いい加減これはどうかと思う」
「そう・・・・かなぁ・・・・?」
「第一こんなに赤々とした部屋では精神が落ち着かないだろう?」
「そんなこと無いよ」
むしろ落ち着いてくる。
まるであの人が傍にいてくれるみたいで。
今まで見たく、隣に立ってくれているようで。
途方も無い安心感がある。
だって―――
「だって、この色はクレプスリーの色だもの」
赤い色
少しだけでも、あんたの存在を感じていたいんだ)
い出しているだけ。
ハーキャットは赤だらけの部屋だと落ち着かないんだ。
むしろ(カーダの)青に染めたいとすら思っている。
この後部屋の配色を赤にするか青にするかで二人はけんかする。
どうしようもない設定。
2010/07/13
※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様
よりお借りしています。