バキバキと痛む関節をさすりながら身体を捩った。
日の光を避けて寝床を確保したつもりだったけれど、わずかに差し込んだ西日が今の僕にとっては炎天下の中にさらされているように感じられたのだ。
あまりのまぶしさに毛布を頭から被って少しでも暗がりになるようにあがいてみたが、どうにもならなかった。
純化作用によって敏感になった僕の感覚の前では、毛布一枚くらいの脆弱な隔たりなど何の意味も持たないものだった。
あきらめて身体を起き上がらせる。
体中痛いところだらけだ。
だからといって命に別状は無いのだから我慢するしかない、とクレプスリーは言った。
確かにその通りである。
だが、いわゆる成長痛というもののせいだとわかっていても、痛いものは痛いのだ。
我慢しろといわれてもいつまで続くとも知れない痛みと戦うのはなかなか骨が折れる。
特に痛みがきつい膝や足首に視線を落としてさすってやると、ばさりと何かが視界を覆う。

「うはぁ・・・・・・また伸びてきちゃった・・・・・」


何度目になるかわからない溜め息を吐いて、のろのろとバックからはさみを取り出す。
純化作用で伸びるのは何も身長だけではない。
髪の毛やら髭やらもやたらめったら伸びるのだ。
純化4週目にしてようやく髭は落ち着いてきたけれど、髪の毛の方はまだまだ留まることを知らない様子でいい加減溜め息も出尽くしてしまいそうだ。
どうせすぐに伸びることはわかっていたから無造作に一束掴んでばっさりと切り落とした。
続けて何度か繰り返せば、ようやく視界が開ける。
襟首の方はこの際放っておくことにする。
紐か何かでくくって置く方が面倒が無いと学んだのだ。

ざっくばらんに切りそろえた前髪を鏡で確認しているとようやくクレプスリーが起き出してきた。
切り落とした髪の毛を片付けている僕を一瞥して「またか」と零す。
しょうがないじゃないか。
僕だって伸ばしたくて伸ばしているんじゃないんだから。

「純化が始まった頃に比べれば大分マシな頻度にはなったではないか」

まるで心でも読んだかのタイミングでクレプスリーがそんなことを言う。

「そうだけどさ・・・・・・」
「もうすぐ純化が始まって5週になる。時期に終わるからそれまでの辛抱だ」
「・・・・・その台詞、2週間前にも聞いたんだけど・・・・・・」
「仕方なかろう。純化がどれだけの期間続くかは予想がつかん。3日で終わるものもいれば2ヶ月掛かるものもいる。終わるまではわからんのだ」
「他人事だと思って・・・・・・」
「事実だから仕方なかろう。一生続くわけじゃないんだ。必ず終わりが来る。それも事実だ」
「はぁ・・・・・・・」

僕は数えるのも億劫になった溜め息を今一度漏らした。

「だが本当に終わりは近いと思うぞ。髪の伸びるペースも少し遅くなって来たしな」
「そうだといいけど。ま、期待しないでおくよ」
「何を楽観視しておる。これからも大変だぞ?」
「?なんで?」

この体中の痛みから解放されて、飽きもせずに伸び続ける髪の毛との格闘もしなくて済むんだろう?
それのどこに心配があるというのか。

「わからんのか?」
「うん」

皆目見当もつかなかった。

「その髪の毛だ」
「髪?」
「お前、今純化が終わったらそのザンバラ頭で過ごすことになるんだぞ」
「あ・・・・・」

そういわれてみればその通りだ。
『またすぐに伸びるから適当でいいや』と短く短く切りそろえてしまった前髪に手を伸ばす。
それも髪形の考慮なんて何も無くバツンとはさみを横一文字に入れているだけなのだ。
確かに、今純化が終わってしまったらいろいろと問題だった。

「どうするつもりなんだ?バンパイアマウンテンにいた頃のように頭を丸めるなら特に問題は無いが・・・・」
「やだよっ!折角髪の毛が生えたんだから伸ばすっっ!!」
「我輩のように短くそろえてしまえば楽だぞ?」

クレプスリーは自分の髪の毛を撫で付けて見せた。
冗談かと思って「そうだね」なんて軽く返してやったら意外にも本気だったようで「そうかそうか!」と嬉しそうに笑うではないか!
あまつさえ「では早速そろえてやろう」なんていって指をぽきぽき鳴らす始末。
っ、冗談じゃない!!
なんで僕がそんな髪にならなくっちゃならないんだよ!
僕の頭に爪を伸ばしてきたクレプスリーの手を振り払って、思いっきり叫んでやった。

「誰がそんな恥ずかしい髪形になるかよ!?そんな髪になるくらいなら死んだ方がマシっ!!」


それから数日してようやく純化はおさまった。
髪型は僕が髪の毛を失う前のものとほとんど変わらないものに落ち着いた。
だけど。

心なしかクレプスリーは意気消沈しているようだった。



かみのけ
(あんたとおそろい!?それだけは勘弁してっ!!)






純化中の一コマ。
クレプスリーは本当は弟子とおそろいになりたかったんだよ。
思いが通じないのはいつものことだけどね。
2010/07/11




※こちらの背景はSweety/Honey 様より、
赤師弟30のお題は赤師弟同盟 様 よりお借りしています。




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