救えたはずのあの日の自分。
これでよかった。
僕もスティーブも、お互いを疑うことなくすれ違うことなくこれからの人生を送ることが出来るはずだ。
そうなることを望んだ。
他ならぬ僕自身が。
なのに

なのに

この胸にあるただ一つのわだかまり。






Owe me a grudge






最後の役目を果たしたリトルピープルの身体は次第に崩壊し始めた。
一つ欠けるごとに思い出が一つ、空に解き放たれる。
パパのこと
ママのこと
アニーのこと
スティーブのこと
それから、人間の僕が出合うことのない大切な人たちのこと。

サム、エブラ、デビー、カーダ、ガブナー、エラ、ミスタートール、バンチャ・・・・・・

名前を挙げればきりがない。
人だけじゃない。
沢山思い出を築いた場所だってある。
半バンパイアの僕を受け入れてくれたシルクドフリーク。
一緒にクリスマスを楽しんだデビーの家。
沢山の仲間と知り合ったバンパイアマウンテン。
ストリークとであったあの森。
ハーキャットと行ったあの未来の湖も。
全て今の僕を構成するものだ。
それらを拾い集めようとしたけれど、既に受け止めるための手は崩れ去っていたことに気がついた。
手の次は腕が。
腕の次は足が。
徐々に徐々に身体は形を失っていく。
もはや朽ち逝くことへの恐怖はなくなった。
再び僕は記憶の回路へ思考を寄せる。

思い返せば後悔ばかりが先にたつ人生だった。
クモを盗んだこと
人間を捨てたこと
親友と仲たがいしたこと
人の血を飲んだこと
仲間に裏切られたこと
友と死に別れたこと
傷つけあうことに躊躇しなくなったこと
引き返すことは出来たはずだけれど、この道を選んだのは間違いなく自分自身。
後悔はしているけれど、しているはずなのに
こんなにも心穏やかなのは、きっと・・・・・・・

やがて、最後のひとかけらが小さな音を立てて崩れ去った時
脳裏をよぎる紅い影

そう
僕が今こんなにも心穏やかでいられるのは、きっとあんたがいたからだ。
これから僕が向かう先にあんたがいる。
だから何も怖くない。
何も悔いることなんてない。
むき出しの魂だけになった僕は、ゆっくりと空へ上っていく。
紅い影が手を伸ばす。
迷うことなくその手を握り返した。



久しぶりだね。
まったくだ。待ちくたびれたわい。
ところであんた、手下とかほしくはない?
手下にはもうこりごりだ。生きている時に散々手を焼かされたからな。
それはさぞかし大変だったんだろうね。
そりゃぁもう、一晩では語りつくせんほどだからな。なんなら一から十まで聞かせてやってもよいのだぞ?
折角だけど、遠慮しておこうかな。
遠慮などせんでよい。なんていってもこれから時間はたっぷりあるのだからな。
まぁ、その話はまた後日ってことで・・・・・・。
最近の若者は根性ないのう。我輩が若いころなんて・・・・
あんたの昔自慢も要らないよ。
おぉ!若いころと言えばな
何?
我輩は生きている時に一つだけ遣り残した事があってな。
へぇ?なんなの?
我輩はお前ほどではないが若くしてバンパイアになった。エラと言う妻を持ったこともある。しかしながら子供を生むことは出来んでな。それだけはひどく心残りのように感じておる。
・・・・・・・そりゃあんたついてるね。今なら頭も良くって性格もいい子が一人いるよ。なんならその子を、どう?
とんだじゃじゃ馬じゃなかろうな?
こよなくクモを愛する男の子さ。
・・・・・・・まぁ、それも悪くないかもしれんな・・・・・・。
OK。それじゃいこうか、パパ。



わだかまりの正体はわかっている。
『君』が決して出会うことの出来ない人がここにいるからだ。
『君』は知らない。
こんなにも幸せな未来があることを。
もう一人のパパがいることを。

『君』が知れないことは
もしかしたら最大の不幸なのかもしれないね。
ごめんね。あの日の自分。









12巻終了後、リトルピープルダレンでの脳内補完。

地味に『君を願う』とリンクしてたりします。

二人には今度こそ楽園でしあわせになってほしいなぁ。

死してなお、勝利の栄冠に輝かんことを。

2009/07/26





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。




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