「俺に助けられて驚いたか?」

言って、ボウガンを突きつけながら言う台詞では無いな、と思う。
視線の先でダレンが驚きと困惑と猜疑の表情を浮かべている。
そんな目で俺を見るなよ。
笑い出さないようにするのが大変だった。
気を抜けば爆笑してしまいそうになるのを必死に堪えて険しい表情を作り込む。

「何故助けたか、分かるか?」

息を飲む音。
一呼吸間を置いてから、ダレンはぽつりと零す。

「善意から、かな」
「かもな」

あまりにも的外れな回答に、小さく笑ってしまった。
最も、ダレンだってこの状況で本気でそう思っているわけではないだろう。
軽口を叩けるくらいには余裕があるぞ、と見せつけているんだ。
多少は戦いのやり方って奴を身につけているらしい。
そうでなくっちゃ。
これから俺たちの、最初で最後の、最高なゲームが始まるんだから。
俺を楽しませる程度になってくれていなくては困る。
でなけりゃゲームがおもしろくならない。
そうだ。
お前は俺のために生きていて貰わないと困るんだ。
お前を殺すのは俺だ。
俺が殺すまで、他の奴になんて殺させない。

「いや、俺自身のために助けたのかもしれねぇな」

小さく漏らした言葉は、痛みに堪えながら俺との距離を広げようとしていたダレンの耳には届かなかったようだ。
ズリズリと後ずさりし、そしてすぐに壁に背中がぶつかった。

「あんた、誰なんだ?」
「分からないのか?」

俺は、お前のことすぐに分かったのに。
ずっとずっと、お前のことばかりを考えて生きてきたのに。
片時だって、忘れたことなんて無かったのに。

「妙だな。俺のことが分からないとは思わなかったぜ」

お前は、違ったのか?
なぁ、親友。

「よう、ダレン。久しぶりだな」
「あぁ、スティーブ!」

お前が俺の名前を呼ぶ。
物語が、動き出す。
止まらない物語が、加速していく。

このゲームが終わった時。
立っているのはどちらか一人。
ドローなんて無い。
勝者が決まるまで終了のゴングは鳴らないファイトステージ。
仲良く二人で表彰台、なんて生っちょろい結末は『運命』が望まない。

お前への感情が、もはや憎悪だけのもので無くなっていることに気が付いたのは俺の行動に『運命』が介入し始めてしばらくしてのことだった。
懐かしい子供の頃の記憶を呼び覚ましてはお前のことを慈しんだ。
慈しんでは憎悪し憤怒し、そして入り乱れる感情に胸を焦がした。

「よせよ」

本当、止しておけば良かった。
こんな感情、気づかないままで良かった。
今や、瞳いっぱいに涙を溜めるお前の表情にすら甘やかな感情が惹起されちまう。
どうせ気づくなら、もっと前が良かった。
お前が俺の手からすり抜けてこの社会から姿を消す前に気づく方が良かった。
『運命』はそうした最高のタイミングを悉く無かったことにして、最悪のタイミングで突きつけてくるから性質が悪い。
もはや悲劇を通り越して喜劇だ。

「こっちまで、泣けてくるじゃねぇか」

本当に、泣けてくる。
俺がお前を殺すか、お前が俺を殺すか。
俺の心を乱して病まないお前を俺自身の手で殺すか、それとも殺されるかの選択肢しかないなんて。
これが喜劇でなくて、何だと言うんだ。
笑ってなけりゃやってられない。
どう転んでも幸せは待っていない。
自らの手で切り捨てていくストーリー展開。
ははっ。
こんなストーリーを考え出すなんて、『運命』は随分と俺たちのことが嫌いらしい。
でもな、俺からも一言言ってやるよ。

俺も、テメェが大嫌いなんだよクソ野郎。

今この時だけは、テメェの思い通りになんてさせてやらねぇ。

灰になって消えていくのは、俺か、お前か。
そんなこと、今は知ったことじゃない。
俺は『運命』に後ろ足で砂を掛けてやる。

涙を流して抱きついてきたダレンの背中に、手を回した。
俺よりも一回り以上小さな身体を、きつくきつく抱きしめる。
この温度を味わえるのは、そう長くはない。
いつ失われるとも分からない体温を脳髄深くに刻み込んだ。

ほんの僅かな、刹那の逢瀬。
後に待つのは破滅の運命。
分かっていても手を出さずにはいられない。

恋とは得てして、そういうものなのだろうか。

愛だとか恋だとか。
そんな言葉が最も似合いそうに無い廃墟の中で、俺はそんなことを思った。





灰になって消えていく前に、ひと夏の恋をする。ver.スダレ


(俺がお前を殺したら、お前のことは俺が覚えててやる。
  だから。
   お前が俺を殺したら、俺のこと、お前が覚えててくれ)









元ネタは診断メーカー。

「ひと夏の恋」の定義がよく分からないなぁと思ってググって要約すると

『夏場における、短い間の単発的な恋』

ってことらしいです。

つまり、スティーブとダレンが感動の再会をしてから川にドボーンするまでの期間をそれと見なすことも可能なのではないかと思って書き殴ってみた。

季節が夏じゃないだろうって?

そこは目をつむるところだぜジョニー。

こちらのお話は ろくさん のみお持ち帰り自由とさせていただきます。

2014/3/17






※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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