まるでミノムシのようにシーツを体に巻き付けたその人から、無理矢理にシーツをひっぺがすところから私のお世話は始まる。
「ラーテン!起きて!もうすっかり日は暮れたわよ!?」
日の落ち始めた景色にふさわしくない、爽快で明瞭な声を張りあげる。
その人は「うぅっ・・・・・・」とうめき声を上げたが、そんなことはお構いなしだ。
「ほらほら。いつまで寝てるの?起きた起きた!」
「・・・・・・マローラ・・・・・・我が輩は二日酔いで・・・・・・」
「私の知ったことじゃないわ。飲み過ぎるなって散々忠告したのを守らない貴方の責任だもの」
「我が輩は自重しようとしたのだ。だが・・・・・・アルコールの奴がどうしても飲んでくれと・・・・・・」
「そんな幻聴が聞こえるようなら本当に危ないわよ貴方?」
いつまでもベッドに張り付こうとする体を力ずくで蹴り落とす。
「ぎゃぁ!」と情けない悲鳴が聞こえた気もするがいちいち気になどしていられない。
バンパイアがこの程度で怪我をするわけもなく。
おおかた、床に落ちた振動で揺れた二日酔いの頭が猛烈に痛んでいる程度だろう。
自業自得だ。
頭を抱えながら、ラーテンは私を恨めしい目つきで見る。
「・・・・・・お前・・・・・・我が輩のことをなんだと・・・・・・」
「ふがいない旅のお供、ってとこかしら?」
「・・・・・・」
「さぁさぁ!早くご飯を食べてくれないかしら?折角作ったのに冷めちゃうじゃない」
テーブルの上では宿の厨房を借りて作ったスープが湯気をあげている。
今日のは自分でも納得のいく改心の出来なのだ。
美味しいうちに食べなきゃもったいないわ。
いつまでもうだうだしているラーテンをよそに、私はさっさとテーブルについてスプーンを手に取った。
「宿の女将さんに教えてもらったの。二日酔いに良く効くんですって」
ずずっ、と啜る。
あまり品の良い音では無いけれど、お世辞にも品の良い暮らしなどしていないのだから構いはしない。
「旦那さんにいつも作ってあげてるらしいの。そしたら、旦那さんは『こいつがあれば二日酔い知らずなもんだからついつい飲み過ぎちまうんだ』って笑ってたわ」
昼間、宿の食堂兼居酒屋で暇を持て余していた時に聞いた話だ。
「・・・・・・我が輩のために作ったのか?」
「さぁね」
「・・・・・・」
何も言わずに、ラーテンはスープ椀を持ち上げた。
スプーンも使わずに、ずずずずずっと、私以上に品のない音を立てて一息で中身を平らげた。
「悪くない味だ」
「でしょう?」
「・・・・・・心なしか、頭が軽くなった気もする」
「あら。バンパイアにも効いて良かったわ」
効き目のほどは半信半疑だったのだけれど。
何でも試して見るものね。
「お前には、これから毎日我が輩のためにこのスープを作って貰うとするか」
さらりと。
ラーテンはそんなことを言ってのけた。
驚いた表情で見返せば。
「我が輩には妻も嫁もおらんのだから、お前がやるしか他にあるまい?」
なんて言う。
だから私も。
「私は夫でも旦那でもない人に毎日作らないといけないの?」
切り替えしてみたものの。
「そういうことだ。頼んだぞ、マローラ」
「あーっ!ちょっと、ラーテン!どこいくのよー!」
「頭がすっきりしたから今晩も飲みに行くことにした」
「ちょっと!バカー!ラーテンのバカー!治ったそばから二日酔いになりに行かないでよ!」
「戸締まりはきちんとしておけよ」
「・・・・・・って、ホントに行っちゃったわあの人・・・・・・」
呆れ声が出るより先に。
「・・・・・・まったく、しょうがないわねぇ」
苦笑してたんじゃ、世話無いわ。
君の目覚めに一杯のスープを
11月22日ネタだなんて・・・・・・。
まさか・・・・・・・・・そんな・・・・・・。
間に合わなかったなど・・・・・・そんなまさか・・・・・・。
私はただ、マローラを幸せにしたいだけなんだ。
2011/11/23
※こちらの背景は
clef/ななかまど 様
よりお借りしています。