俺の想いは、報われない。
優しく、優しく。
まるで壊れものを扱うかのような手つきで慎重に抱き上げても
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、ふぇっ・・・・・・ぇっ・・・・・・」
10秒も保たずに涙目になるときた。
「・・・・・・っ、おいっ!バンチャ!?」
「あー?またかよ・・・・・・」
一応父親であるバンチャに助け船を求めると、大声で泣き出しかけたティーダの首根っこをひょいとつまみ上げた。
ぶらんぶらん揺れるのが心地いいのか、つい一瞬前までの涙目はどこへやら。
きゃっきゃきゃっきゃと笑いだしたではないか。
「・・・・・・まったくもって腑におちん・・・・・・っ!」
「お前が嫌われいるのではないか?ミッカー」
隣でもう一人の子供、ブレダを高い高いして遊ばせているアローが言った。
「我らが相手しているときは泣いたりなどせんぞ?」
「お前ん時だけだよな。こいつらが大泣きするの。よっぽど嫌われているんじゃねーか?がはははは!」
「なにを根拠にっ!俺は誠心誠意この子たちと接しているのだぞ!?」
「嫌われてるんじゃなけりゃ、お前が怖いんだろうよ」
「その陰気な顔にむっつり顔じゃぁなっ!もっとこう・・・・・・ニコっと笑ってみろって。ニコっと」
「に・・・・・・ニコ、か・・・・・・」
笑顔。
そうだ確かに生まれたばかりの生物というのは外部から与えられる感情に敏感だ。
好かれようと躍起になるよりも、まずは笑顔で接して警戒を解いてもらう方が先決。
なるほど腐っても親だな。
今回ばかりはバンチャの言うことが正論かもしれない。
(ニコっと・・・・・・できる限りの笑顔で・・・・・・)
脳内でイメージトレーニング。
・・・・・・・・・よし、いける。
俺は再びティーダの方に向き直る。
抱き上げればそれだけで警戒されかねないから、今はバンチャに抱かれたままの状態でもいい。
「・・・ティ・・・・・・ティーダちゃーん?ミッカーおじさんですよー?」
俺が想像しうる最高の笑顔で!
渾身の笑顔で!
普段笑ったりしない俺の頬筋がひきつれる。
こめかみのあたりがピクピクしているのが自分でもわかる。
だが、これもティーダと仲良しになるための試練!
これまでに受けたどの試練よりも遙かに難関だ。
我らバンパイアは知っている!
試練は壁が高ければ高いほど乗り越えた時、自らが成長できるということを!!!
さぁどうだ!
これでティーダも俺への警戒が解け・・・・・・・・・
「びえぇっぇぇぇんんんっ!!!」
大泣きだった。
何故だ!?俺の渾身の笑顔はどこへ行った!?
「・・・・・・この世の地獄よりも酷かった・・・・・・」
大泣きするティーダを抱き抱えながらも、床に手を付いて「うっぷ・・・・・・」とえづくバンチャ。
その顔はすっかり血の気を失っていて、元々血色がいいとは言えない顔色を余計に悪くしていた。
「バンチャ、お前一体何を見たんだ!?」
「皆まで聞くなアローっ!・・・・・・言葉にしたら先50年は夢に出てきそうだ・・・・・・」
「・・・・・・っ!?それほどまでか・・・・・・っ!」
「貴様ら・・・・・・」
言いたい放題言ってくれる。
俺の最高の笑顔を最終兵器みたく言うな!
失礼極まりない連中だ。
俺たちのやりとりをよそに、ブレダの首がこっくりこっくり船を漕ぎ始める。
どうやらそろそろ昼寝の時間なのだろう。
まだ起きていたいと言わんばかりにグリグリ目を擦っては襲ってくる眠気にあらがえずに首がガクン。
何度か繰り返すうちに、とうとう目が半分も開かなくなる。
う〜、う〜と訴えるが、赤ん坊にとっては昼寝も成長の一環。きちんと寝かせてやらねばなるまい。
俺は昔習った歌を口ずさむ。
できるだけゆったり歌い、それに併せてブレダの頭を優しく撫でる。
ちなみにブレダは撫でるくらいなら泣かないでくれることは事前に確認済みだ。
「そういや、ミッカーは昔『遠吠え王』に選ばれたことがあったな。わざわざどっかの歌手に習いに行ったとか」
「ほぅ。確かにこれは、なかなか・・・・・・」
心地いいメロディーに促され、ブレダはとうとうコテンとミッカーの腕の中で寝こけてしまう。
よしよし。流石私だ。
ティーダでもせめてこれくらい上手く言ってくれればいいのだが・・・・・・。
何分、ティーダには触っただけで泣かれてしまうこの俺だ。
先は長い。
「あーぅ!あーぅ!!!」
ティーダの声に、振り返る。
そこにあったのはまさに我が目を疑う光景!
ティーダが!
あのティーダが!!
俺に向かって手を伸ばしているではないか!?
なんだこれは!
ティーダから触ろうとしてくれている!
おそるおそる俺も手を伸ばす。
「・・・・・・・・・びぇぇぇぇぇええぇぇぇっん!!!」
・・・・・・・・・またしても大泣き。
「何故だ!?」
「ふむ・・・・・・、おいミッカー。お前もう一度歌ってみろ」
「何だと?」
「いいから歌ってみろ」
「う・・・・・・うむ・・・・・・」
アローに促されるまま、再び口ずさむ。
すると──
「あーう!あーう!!」
歌いだしたとたん、ティーダがもう一度俺に向かって手を伸ばし始めた!
「どうやらお前の歌は気に入ったようだな」
「そ!そうか!!」
「歌いながらだったら抱っこできるんじゃねぇか?」
「おぉっ!それは名案だ!」
ゴホン、と咳払いを一つしてから奏でる。
昔、テノール歌手に習ったことがこんなところで活かされるとは・・・・・・人生何が起こるかわからんものだ。
期待と不安を胸に、ティーダをバンチャの手から救い上げる。
「あーぃ!あーぃ!」
おおっ!なんということだ!
俺の手の中にいるというのに泣き出さないどころか喜んでいるじゃないか!
「おっ、おいっ!見たか!今ティーダが俺の手の中で笑ったぞ!」
喚起の余り叫ぶ。
叫ぶと言うことは、それまで口ずさんでいた歌を奏でられないと言うことで。
「・・・・・・ふぇっ!ふぇっ・・・・・・ひっ、びえぇぇぇん!」
歌が止まった瞬間泣き出した。
俺は慌てて歌い出す。
すると嘘のように笑ってくれる。
「・・・・・・歌ってるとき限定だな・・・・・・」
「そのようだな・・・・・・」
二人が哀れんだ目で俺を見る。
えぇい!何とでも言うがいい!
何事も一歩ずつ着実に。
こうやって僅かながらも前進出来たんだ!
俺はあきらめんぞっ!!
いつか必ずティーダと仲良しになって、いつか「ミッカーおじちゃんと結婚するのー!」と言わせるんだ!
テノールの子守歌
はい!何にも考えていないおバカなお話でした!
ミッカーが完全にギャグキャラwww
まぁ仕方ないよね。ミッカーだもの。
ミッカーがティダと仲良くなれる日は来るのでしょうか!?
これからも二人のことを見守ってやってください!
2011/06/07
※こちらの背景は
NEO-HIMEISM/雪姫 様
よりお借りしています。