真っ赤な薔薇を花束にして。
両手でも抱えきれないほどの花束にして。
今日も今日とて、俺はあしげく彼女の元に向かう。
たとえ泣き喚かれようとも。
たとえ手ひどい仕打ちを受けようとも。
この心の奥底から沸き立つ感情がある限り。
あきらめ悪く足掻いてみせる。
───トントントン
ゴクリと唾を飲み込んでから、思い切って扉を叩く。
5秒経ち、10秒経ち、30秒が経過。
だが扉は無反応を貫く。
不在?
いや、そんなわけはない。
この部屋にいることは事前に確認済みだ。
・・・・・・ならばどうして?
不思議に思ってもう一度叩く。
「・・・・・・・・・んぅ〜?・・・・・・」
やや合間をおいて扉の奥からかすかに声がするのを聞いた。
バンパイアでなかったら聴き逃してしまうほどのかすかな声。
在室を確認したのでしつこいかも知れないが再度ノック。
「だぁれぇ?」
間延びした、眠たそうな声だ。
今し方まで昼寝でもしていたのかも知れない。
だとしたら少々悪いことをしてしまったな。
かといって一度起こしてしまったものを「何でもない」と言うのも身勝手というもの。
俺は正直に答える。
「俺だ」
「・・・・・・ん〜?みっかぁ?」
「あぁ。そうだ。お前に渡したいものがあってな。ちょっと良いか?」
「はぁい」
ペタペタと。
まるで歩いてくる音が扉越しに聞こえて来るような気さえした。
さしものバンパイアと言えどもそこまでは出来ない。
つまりは、だ。
そんな幻聴を聴いてしまうくらい俺は緊張していたというわけだ。
扉がギィといかにも立て付け悪そうな音を立てて開かれた。
扉の奥からはまだ眠そうな目を小さな手でくしくしこするティーダの姿。
若干うつらうつらしているせいか、普段よりもぽやっとした印象を受ける。
「みっかぁ・・・・・・なぁに?」
俺の顔を見ただけで泣き出しかねないティーダがごく普通に俺に話しかけている。
何という奇跡だ!
これまでからは到底考えられない進歩ではないか!
予想外の展開に動揺しながらも、俺は両手で抱えていた花束をティーダに差し出す。
その大きさといったら、すっぽりティダの体が隠れてしまうほどの大きさ。
ティーダが普通の子供であったならその重さに耐えきれずに倒れてしまったことだろう。
「お前へのプレゼントだ」
「ぅ?」
「赤い薔薇の花言葉は『お前を愛している』。俺がいつでもお前のことを想っているという気持ちだ」
なんというか、一世一代のプロポーズをした程の心持ちだった。
これは存外恥ずかしい。
対してティーダはどう反応したものか困っているかのようにも見えるし、目の前のものがなんなのかわかっていないようでもあった。
両手いっぱいの、視界を埋め尽くさんばかりの花束を抱え、しばし見つめる。
そして。
おもむろに。
パクリ、と。
もしゃもしゃ、と。
花弁を咀嚼し、嚥下した。
「・・・・・・・・・おいちくにゃぃ・・・・・・・・・」
そういいつつも、小さな口でもちゃもちゃ花びらを食べ続ける。
「・・・・・・あ〜・・・・・・それは・・・・・・そうだろうな・・・・・・」
薔薇を生で食べて美味しいだなんていう話は長いこと生きているが聞いたこともない。
・・・・・・食用薔薇とかの方が気に入ってくれたのだろうか?
──と、そうではなくて。
(腹が減っている・・・・・・ということなんだろうな)
これまでの経験とかなんかそういう感じのもので推察する。
子供というものはとかく燃費の悪い生き物なのだと俺はこの数年で理解した。
ほんの1時間前に食事をしたばかりでもすぐにぐぅぐぅ腹の虫が食料を要求するのだ。
もはやご飯を食べて体を動かして眠ることが子供の仕事なのだから仕方がない。
そういえばこの間町に出かけたときに買っておいたチョコレートがまだ残っていたはずだ。
あれでもこの子の腹の足しにはなるだろう。
「ティダ。おやつでも食いにいくか?」
優しく、笑いかける。
歴代の元帥閣下が今の俺を見たら嘆くだろうか?
元帥たるもの誰よりも何よりも屈強であるべきだ、と俺をしかりつけるだろうか?
だが、申し訳ないが俺は詫びを入れるつもりなど微塵もない。
この子は。
この子たちは。
バンパイアと、そしてバンパニーズの希望なのだから。
これまで誰も成し得なかった偉業を成す、我らの希望。
誰もが求め、夢見、そして片鱗すら垣間見ることもなく多くの同胞は朽ちていった。
だが。
今その希望はこの手の中にある。
決して手放すわけにはいかない。
俺が、見届ける。
朽ちていった者の分まで。
最後まで。
この希望を、慈しむ。
それが、俺の元帥として果たさねばならない使命だと思っている。
「ぁい!」
相変わらず寝ぼけ眼のくせに、食べ物が絡むととたんに元気な返事が返ってくる。
どうやら、お子さまには色恋よりも目の前のおやつの方がずっと魅力的なものらしい。
(まぁ・・・・・・仕方のないことだがな)
俺は、苦笑して彼女の体を抱き上げた。
完全に覚醒した少女が大泣きするのは、五分後のお話。
両手いっぱいの愛と空腹
うぇっへへwwwww
ハイヒールギャングのくもりさんがね!
うちの子(ティーダ)を描いてくれたんだよ!
それもね!ミッカーとセットで!ミカティダで!!
おっさんと幼女まじうめぇぇぇっっぇぇ!!
やばいやばいあんな幸せそうなミッカーとかミッカーじゃない・・・・・・・・・っ!
彼は不憫なくらいでちょうどいいんだよ!(ヒデェwwwww)
うれしさのあまりそのイラストのワンシーンを妄想してみたっていうあれです。
ミカティダぷめぇ!
おっさんと幼女の破壊力まじすげぇ!!!!
くもりさん本当にありがとう!
お礼と嫌がらせをかねて(←おい)このお話はくもりさんに贈らせていただきます!
くもりさんのみお持ち帰り自由でっす!
ほんとありがとう!
2011/06/27 さかきこう
※こちらの背景は
RAINBOW/椿 春吉 様
よりお借りしています。