I’m going to tell you something important.






「我が輩はな、ダレン」

妙に明るい声でクレプスリーが話す。
何かいいことでもあったのだろうか?

「・・・・何・・・・?」
「もう終わりにしようと思うのだ」
「は?」

何をだ。
物事を話すなら主語述語をきちんと使え。

「何なの?突然。意味わかんないよ」

不思議なことを言い出すのはこの人の悪い癖みたいなもの。
最近はそう思うことにしている。
出逢った頃はこんなじゃなかった気もするけれど、気がつけばこんな風になっていた。
突然、自己完結したことを話し始める。
それはすごく大切な話なこともあるが、9割くらいはどうしようもない内容で。
きっと今日のこれもその類なんだろうと勝手に推測する。
だから僕はショーの後片付けの手を休めなかった。
マダムの籠を磨き、衣装の手入れをし、それから愛用の笛もきちんと調律しておかないと。
やることなんていっぱいある。
けれどもそれは手下の仕事だから、とクレプスリーは一切手伝わない。
その辺の木箱に腰を掛けて、僕が仕事を怠らないかチェックしている。
そんな風に監視されなくったって僕は毎日きちんとやっているのに。
僕のことを信用していないのは相変わらずだった。

「何のことか知らないけど、終わりにしたいなら勝手にすれば?」

子供じゃないんだ。したいことくらい勝手にしたらいいじゃないか。

「あぁ、そうさせてもらうとしよう」
「・・・・・・・・?」

素っ気もクソもあったもんじゃないこんなやり取りで、クレプスリーが口元を緩ませる。
変だ。
変なのはいつものことだけれども、今日はそれに輪をかけておかしい。

「・・・・・・クレプスリー・・・・・・?」
「なんだ?」
「なんだはこっちのセリフだよ。なんなんだよニヤニヤして気持ち悪い」
「いや、改めて言葉にすると世界は変わるものだな、と実感おったのだ」
「・・・・・意味わかんない・・・・」

やっぱり、今日はなんだかおかしい。

「ダレン」
「なんだよ」
「片付けはいいから、こっちに来い」
「は?」
「後で我が輩も手伝ってやるから、こっちに来い」
「・・・・・・・・・・」

いつもは『やるべきことはその場で終わらせろ』って言うくせに。
やっぱり、どう考えたって今日のクレプスリーはおかしい。
しかしこんなことを逆らったところでどうしようもない。
金属磨きの布を片し、誰かが間違って蹴飛ばさない位置にマダムを移動させてから僕はクレプスリーに足を向けた。
並んで座るにもクレプスリーの横はさまざまな道具が積みあがっていたから、居場所も無く目の前に立つ。

「もっと近くに来い」
「近くって・・・・・」

一歩詰めるが、もっとと言われ、更にもう一歩前に出る。
殆ど膝を突き合わせるような距離感だ。
いつもならどうって感じないだろう距離でも、改めてこうなるとなんだか気恥ずかしい。
やっぱり・・・・と思い、半歩だけ後退しようとするが

「っ・・ぅわぁっ!!」

すっと伸びてきたクレプスリーの腕が僕の腰に巻きつき、強い力で抱き寄せられた。
突然のことにバランスが崩れる。
不幸にも支えになりそうなものなんて、目の前のクレプスリーくらいしかいなくって。
必然的に僕はクレプスリーに抱きつく形になる。
ちょうど肩口くらいを掴んで、なんとか倒れこむことだけは免れた。
だがしかし。

「ちょ・・・・!クレプスリー!?」

腰元に回された腕は一向に緩まる気配を見せない。
それどころかより一層強く抱きしめられてしまう。

「なにすんのさ!」
「終わりにすると言っただろう?」
「だから何を!」
「お前に対して自責の念を抱くことを、だ」
「・・・・なんだよ・・・それ・・・・」

あんたはまだそんなことに縛られていたのか?
僕はもう、あんたを恨んじゃいないのに。
当の本人があんたを許しているのに。
なんであんたがあんたを咎めなければいけないんだ。
そんなの、おかしいじゃないか。

「もちろん、お前がもう我が輩のことを恨んでいないことは知っている」
「なら、なんで・・・っ!!」
「お前が責めてくれないならば、我が輩がするしかないだろう」
「おかしいよそんなの!」

なんで責められることが“当たり前”なんだよ。
まるでそうじゃなきゃいけないみたいに言うな。
そんなの対等じゃない。
そんなアンフェアな関係、僕は望んでいない。

「・・・・それだけのことをお前にしたんだ。その罪を我が輩が忘れるわけにはいかんのだ」
「自業自得だよ・・・・・あんたは、悪くない」

あんたが気に病む必要なんて何もないんだ。
あんたを恨むことなんて筋違いだって知った。
だから、あんたが好きになった。
なのに。
なのに。
こんなの、寂しすぎる。
僕のこの気持ちのやり場が、無いじゃないか。

「だったら・・・・僕はどうしたらいいんだよ・・・・・」
「・・・ダレン・・・」
「・・・・っ」

「泣くな」

「っ・・泣いてなんか・・・・!!」

がしがし袖口で目元を拭う。
擦れて真っ赤になることも構わずに。

「・・・・・もっと早くに気がついたらよかったと思う。こんな単純なことにどうして気がつかなかったんだろうな」
「・・・・・・・・・・・・」
「責められていればそれで良いと、思っていた」
「・・・・・・・・・・・・」
「我が輩たちの関係は、それで良いと思っていた」
「・・・・・・・・・・・・」
「でも、それではダメなんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから終わりにするんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前を『父親』として見守るのは、今日限りで終わりにしたい」
「・・クレ・・・・・」


「お前が好きなんだ」


「・・・・それは・・・・」

どういう意味で?
問えば、答える代わりにきつく抱きしめられていた腕が少しだけ緩み、目元にクレプスリーの唇が触れた。

「今更、言わねばわからん仲ではないだろう?」
「うん・・・・・うん・・・・・・」

言うと涙がこぼれそうになった。
それらは全部クレプスリーが拭ってくれた。
たったそれだけのことが、あんたが僕に触れてくれることがすごく嬉しくて。
何個も何個もポロリポロリ溢れ出る。
『いい加減にしろ』なんて怒ることも無く、クレプスリーはずっと拭い続けてくれた。

「泣くなと言っただろう」

まるで困ったように。
まるで嬉しそうに。
優しく笑ってくれる。

「だって・・・・・」

嬉しかった。
嬉しかった。
あんたが僕と同じ気持ちで触れてくれることが。
やっと、僕たちは対等になれたのだから。

「我が輩はずっと考えておったのだ。何故あの時、お前に血を注いだのか、と」
「うん」
「元帥たちに申し開きは出来なかったが、というかあの時はまだわからなかったが今ならわかる」
「うん」
「ただ、お前に傍にいて欲しかったんだ」
「うん・・・・・僕もだよ」

だからあんたを受け入れた。
あんたと居たかったから。
家族を捨ててでも、あんたと一緒にいたいと思ったから。

「好きだよ」
「あぁ」
「好き」
「知っている」
「好き」

足りないよ。
まだ、全然足りない。
もっともっと、言って欲しい。
もっともっと、言わせて欲しい。
償いとか、自責とか、後悔とか、そんな後めたさなんてかなぐり捨てて。
心のままに、感情をぶつけて欲しい。
僕たちの間に、そんなものはもう必要ないから。




(君にちょっと大事な話があるんだ)








なんか、純愛ってこんなん?(しるか

恋人なこの二人ってのはなかなかどうして書くのが難しいね。

年の差カポーすぎんだよおまえら。

何歳差?180歳くらい?うひょー。

気を抜くとクレプスリーがただのロリコン変態オヤジになってしまうので

取り扱いが大変難しいことだけはわかりました。

タイトルはたまたま目に付いた英語の例文をそのまま使用。

2010/02/09





※こちらの背景は NEO-HIMEISM/雪姫 様 よりお借りしています。




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