ひとしきり自分達の荷物をまとめ終え、僕はもう一つの『荷物』の確認に行った。
『荷物』なんて言ったことがばれればガネンにこっぴどく怒られるのは目に見えているのだが、今回ばかりは本当にお荷物だ。

(お守りをさせられるこっちの身にもなれっってーのっ!!)

なのにこうやって心配になって様子を身に行ってしまうのは、長年刷り込まれた弊害とも言える。

「ったく、あいつら準備終わってるんだろうなぁ?」

あいつら、というのはつまり今回唐突に同行することになった双子のことだ。
自分達の荷物は自分でまとめるようにと言っておいたのだが、果たしてどうなっているやら。

(もしも全然準備が出来ていないようなら、あいつら置いてバネズとさっさと出発しても構わないよな?)

心の中でそんな企みをしていることは僕だけの秘密だ。
そんなこんなで双子の部屋をノックする。

「ブレダぁ?ティーダぁ?準備できたかぁ?」

ゴンゴンゴン。
返事は無いがバタバタと騒がしくしている音はする。
・・・入っても良いのだろうか?
そろーり、静かに戸を開けた。

そして、絶句。

「・・・お前ら・・・それなんだよ・・・?」

思わず指差してしまった。

「あ、兄ちゃんだ」
「ダリウスお兄ちゃんだー!」

双子がくるり、こちらを向いた。
僕が指差しているのは、その背後。
二人の背丈ほどもあろうかというどでかい袋だ。

「・・・まさか、それもって行くつもりじゃないだろうな・・・?」
「持ってくよー!」
「ちゃんと二人で持つから大丈夫だよー。ねーブレダ」
「ねー!」

おいおいおいおいおいおいっ!冗談じゃない!!
んな馬鹿でかい荷物を運ぶお子様がいるか!?
いや、確かにこいつらなら問題なく運ぶだろうけど、問題はそこじゃなくて!

「分かってるのかお前ら!?これから行くのは人間の街なんだ!!俺たちは出来るだけ怪しまれないように人間のふりをしなくちゃいけないんだ! 出来るだけふつーに!出来るだけバンパイアだと気付かれないようにしないといけないの!! ふつーの人間の子供はそんな大荷物抱えられないから持っていけないっての!!!」
「えーーーっ!?」
「だめなのぉ?」
「だめっ!絶対だめっ!」
「ぶぅー」
「ぶーぶーっ!!」
「ぶーたれてもダメなものはダメなの!大体、なんでこんな大量の荷物になるんだよ?何入れてるんだ?」

異常に大きい袋の中身を改めようと手を伸ばすと。
ゴソッ。

「・・・え?」

え?あれ?今、この袋・・・勝手に動いた・・・?

「・・・・ぅ・・・っ・・・」
「・・・・・・・・・」

喋った?袋が、喋った?いやいやいや、そんなまさか・・・

「・・・助け・・・てく、れ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

助けを・・・求められました・・・袋に。

「っって!そんあわけあるかぁぁぁっ!!何入れたんだおまえらぁぁぁっぁっっっ!!!!」

得体の知れないものに対する恐怖よりも何よりも、事実確認が先だっ!
僕は自分自身に活を入れて袋の口を全開した。

ぼてり。

中から現れた得体の知れないもの・・・は、実はとても見慣れたものだった。

「・・・え・・・?ハーキャット・・・?」

青いローブに身を包んだ小さな背格好の不思議な生き物。
デズモンド・タイニーによって作られたリトルピープルと呼ばれる生き物だ。
その中でもこいつは特別な奴で、リトルピープルの中で唯一言葉を話せる奴だ。

「死ぬかと思った・・・いや、もう死んでるけどな」
「なんでハーキャットが袋の中に・・・?」
「ハーも一緒に街に連れて行きたいのー!」
「でも目立っちゃうから一緒に行けないってハーが・・・」
「だからね、目立たないように僕たち二人でハーを運んであげることにしたのー!」
「余計目立つだろうがっ!!って言うか、街に着く前にハーキャットが窒息死するだろっ!」

もともと土気色の肌が一層血色悪くなっている。
後数分遅かったら本当に危なかったのではないだろうか?

「ねー?兄ちゃん。ハーは連れて行っちゃダメなの?」
「ハーだけ仲間はずれじゃ可哀相だよー」
「んなこといったって・・・」

事実ハーキャットの容姿では否が応でも目立ってしまう。

「ねー?だめー??」
「だめなのぉ??お兄ちゃんお願い。ハーも連れて行ってあげて?」

双子の伝家の宝刀。ねーねー攻撃!
こいつは出たら最後。
譲歩を望んでいるように見えて自分達の納得のいく答えが出るまで相手を攻め倒す、ただの脅迫技だ!
こうなればこいつらはてこでもハーキャットを連れて行くだろうし、仮にこの場だけ宥めても、また袋詰めにしかねない。
二度目になればさしものハーキャットも本当に死んでしまうかもしれない。

つまりだ。

「あーーーっ!!もう分かったよ!!連れて行けば良いんだろ連れて行けばっ!!」

旅の仲間が一人増えた、ということだ。

「やったーっ!!!」
「ハーも一緒だー!!!」
「はぁぁぁぁっっ・・・・・」

バネズと二人旅のはずだったのに・・・なんでこんなことになっているんだろう?
僕は一人頭を抱えてうずくまった。





街へ行こう〜荷造り編〜






2011年5月スパコミで無料配布した

「傷師弟と双子の兄妹を広めたいだけの本2」収録話です。

タイトル通り、続きます。

2011/06/24(サイト掲載)




※こちらの背景は clef/ななかまど 様 よりお借りしています。




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