つと、見上げた先に月があった。

「・・・・・・・満月だ・・・・・・」

僕は思わず足を止め、ポツリと呟く。
闇空すらも明るく照らしだしてしまうくらいに眩い光を放つ、黄色いようで、赤いようで、青白いそれは、多分どれもが本当で、多分どれもが本質ではないように思う。
真実など誰にもわからない。
きっと、あの月自身にも。

それでも月は光り輝く。
己の姿の総てをさらさんとばかりに。
自分のあるべき姿をとるために。

しかし月があまりに輝くものだから、周囲の星は光を失っている。
強すぎる明かりが、星の輝きを奪っている。

それでもなお、月は光り輝く。
ほんの少し、その光を弱めてやれば共にいられるのに。
仲間と共に光りを放てるのに。
彼は敢えて孤独を選んだ。
己が己であるために。
仲間を捨ててでも、他の道を捨ててでも、進むべき道のために孤高を選んだ。

それは一体、どんな気持ちなのだろう。
寂しくはない?
悲しくはない?
仲間が恋しくはならない?
その道の先には一体何が待っているの?
その答えは、本当にあるの?


「・・・・・・あ・・・・・」
「どうした?ダレン」

先を行くクレプスリーが振り返る。
月明かりが、照らし出す。

「いや・・・・・・・・・なんでもない。ただ」

言ってやらない。
月光に照らされたあんたが、どうしようもなく奇麗だっただなんて
悔しいから絶対に言ってやらない。

「月が奇麗だなって思っただけ」
「ならさっさと行くぞ。夜は短いからな」
「わかってるよ」

あんたは月に向かって歩き出す。
半歩後を僕が続く。
あんたが一歩歩けば僕も一歩。
十歩進めば十歩。
離れることなく着いていく。

「・・・・・・ねぇクレプスリー」
「ん?」
「僕がいてよかったね。一人っきりにならなくて済む」
「何を言っとるんだこのヒヨッコめ。一人のほうが自由で清々したわ」
「寂しくて眠れない昼間も僕が一緒に居てあげられる。もう大丈夫だよ」

あんたの手を取る。
僕のよりずっと大きくて、ごつごつした手。
でもあったかくて、僕の好きな手。

「・・・・・シャン君よ。我輩をいくつだと思っとるんだね?」
「髪の毛も生え揃っていないベイビーちゃんだろ?」

皮肉たっぷりに言ってやる。
あんたは短い髪の毛を空いているほうの手で二三度撫でつけてから、まんざらでもなさそうに一言漏らす。

「・・・・・そうだな・・・・・」

嬉しそうにくしゃりと笑った。
僕が握った手をあんたが握り返す。

「さて、先を急ぐとするか」
「うん!」


あんたがそうあるために選んだ道なら
あんたがあんたらしく生きるための決断だったなら
僕はそれでもいいと思った。

でも忘れないで。
あんたは一人なんかじゃない。
たとえ輝きを奪われても星々はそこにいる。
決してあんたを置いては行かないから。
あんたの側を離れたりしないから。




抜けるような夜空
     煌々と光る満月を見た








雰囲気小噺。

月があまりにもきれいだったので。

月を将軍の地位を捨ててマウンテンを去ったクレプスリーに重ねて妄想。

星はダレンを含めバンパイアの仲間たちです。

3巻と4巻の間くらいかな?

これは赤師弟というよりもダレクレに近いかもしれないと一人思ってみる。

2009/09/08





※こちらの背景は 空に咲く花/なつる 様 よりお借りしています。




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