久方ぶりの再会のあと、足の向くままカフェへと入った。
冷たい飲み物で一息つくとようやく私は冷静さを取り戻せたようだった。
頭の中で先ほどのやりとりを反芻。
そして、言葉がポロリ漏れ出る。
「なんか・・・・・・スティーブの言葉って信用できないのよね」
頬杖を付きながらストローでグラスの中身をかき混ぜる。
カラリと音を立てて氷が位置を入れ替えた。
スティーブは私を見て「綺麗になった」なんて言ってくれたけど、それってただのお世辞でしょ?
全然綺麗になんてなっていないことは私自身がよくわかってる。
一瞬でもうぬぼれそうになった自分を叱りつけてやりたい気分だわ。
向かいの席に座るスティーブは眉間に皺を寄せてこちらをにらむ。
それは己の感情に愚直だった幼い頃の彼を彷彿とさせた。
「あぁ?なんだその生意気な口のきき方は」
「だって・・・・・・」
思い返す昔の記憶。
まだ、シャン家が4人家族だった頃のこと。
スティーブはよくお兄ちゃんといろいろなイタズラをしていた。
冗談で済むものから思わず閉口してしまうものまで、それこそありとあらゆることをやっていた。
彼は自分が楽しいと思うことだったらどんなばかげたことにでも全力で。
そのために必要な嘘はいくらでもついた。
平素バカにしていた先生に対してだって「いい子のフリをしておくと利用しやすい」なんていう理由で積極的に質問をしていた、とお兄ちゃんが話していた。
(──そう、スティーブは昔から嘘つきだったのよ)
本気なんかじゃない。
私なんかを好きになる人なんていないって、さっき悟ったばかりだわ。
期待なんかするだけ無駄。
自分を余計に傷つけるだけ。
そんなの・・・・・・まっぴらごめんだわ。
「嘘つきでイタズラ好きで、いつも私を騙して遊んでいたじゃない」
「・・・・・・そうだったか?」
「そうよ。いっつも私のこと仲間外れにしてお兄ちゃんと二人で遊びに行っていたわ」
「ガキの頃の話だろ?」
「じゃぁ言ってみなさいよ!この私のどこが綺麗になったって言うの!?」
何も成長してないこの私。
みんながどんどん大人っぽくなって行く中、一人取り残される私。
「身長も低いままっ!胸も大きくならないし体はいつまでも子供体型でっ!
お洒落だってお化粧だってへたくそなことくらい自分でわかっているわよ!
そんな私のどこが綺麗だって言うの!?」
あぁ。
いやだ。
こんなのただの八つ当たり。
醜い子供のヒステリー。
どうにもならない憤りを彼にぶつけているだけ。
見た目どころか心まで子供のままだなんて、本当泣きたくなる。
そこまでわかっていながら、言葉が止まらない。
感情を抑制できない。
癇癪を起こした子供のように、ただ、喚く。
「お世辞じゃないって言うなら説明してみなさいよ!?できる?出来るわけないのよ!だって・・・・・・私は綺麗なんかじゃ・・・・・・」
むすっとした表情で、スティーブが私に向かって手を伸ばす。
(殴られる!?)
スティーブは気に食わないことがあれば躊躇いなく暴力を振るう子供だった。
今喚いた私のことにいらついて殴って黙らせるつもりなんだ。
反射的にギュっ!と目を閉じて訪れるであろう痛みに備えた。
「・・・・・・ばぁか」
コン、と。
彼の拳が私の額を軽く小突いた。
「・・・・・・スティーブ・・・・・・?」
おそるおそる目を開ける。
──開けた時には。
仕方ない奴、とでも言うかのような表情で。
彼は、優しく笑っていた。
「ばぁか」ただ、その一言だけ。
(そんなお前が可愛いんだよ)
スティアニぃぃぃ!!!
スティーブがキザ男だな。誰だよこいつ状態www
こいつも診断メーカで出てきた3つの恋のお題ネタです。
『ばか。ただ、その一言だけ』ってお題。
バカっていい言葉だよね。
相手を侮蔑するだけじゃなくて、その言葉の奥に愛を宿すことも出来るんだもの。
うわ、書いてて恥ずかしいwww
2011/06/02
※こちらの背景は
Sweety/Honey 様
よりお借りしています。