報告を受けてから1週間後。
成りたてのバンパイア将軍がダリウスを連れてきた。
あからさまに不機嫌な様子を振りまいていた。
そして、ダリウスがこのバンパイアマウンテンにやってきて発した第一声。
「バネズってどいつ?早く僕を一人前にしてよ」
このふてぶてしい態度!
身の程知らずの発言!
瞬時にどこかの誰かを連想させた。
数年前、半バンパイアのくせにいっちょ前に常勝の女神に戦いを挑んだ大馬鹿者のことだ。
あいつと同じ臭いが、ダリウスからはした。
「お前がダリウスか。話は聞いている」
「・・・・・・誰あんた。目ぇ潰れてんじゃん。話になんないよ」
「だが、残念なことに俺がお前ご指名のバネズ・ブレーンだ」
「げっ!?・・・・・・こんな奴に僕を任せるとか、おじさんは何を考えているんだよ・・・・・・」
「おじさん?あぁ、そうかそういえばお前、ダレンの血縁らしいな」
「・・・・・・僕のママは、ダレンおじさんの妹だよ」
通りで似た臭いがするはずだ。
多分性格もあいつに似ているんだろう。
顔立ちは・・・・・・俺にはよくわからない。
後で誰かに教えてもらおう。
「ていうかさ、ホントにあんたなの?あんたそんなので本当に僕のこと一人前にできるの?」
訝しげな声。
俺のことを疑っているのだろう。
「言葉で説明するよりも体で感じろ。どこからでもいいからかかってこい」
「は?」
「だから、今ここで俺がお前を伸してやるって言っているんだ。なんならハンデにナイフ使ってもいいぞ?」
腰にぶら下げていた短刀をダリウスの方に向かって投げた。
カツン、と小さな音を立ててダリウスの足下に転がった。
「ふざけるなよ。僕がいくら子供だからって怪我するよ?」
周囲が、声を殺して笑っているのを感じた。
俺相手に大層な口を利く奴が現れたのだ。
しばらくの間、笑い話として語られるだろうが俺の知ったことではない。
若さ故の過ちというもの。
誰にだってそんな経験の一つや二つ有るに決まっている。
そういうことを教えるのも、きっと師の役目なんだろう。
「構うか。これだけ豪語しておいてお前みたいなひよっこにやられるような奴にこれから教えを請いたくはないだろう。嫌なら殺すつもりでかかってこい」
「・・・・・・どうなっても知らないからね」
「それでいい」
その必要も感じなかったが、挑発する目的で俺は半身を開いて構えを取った。
ダリウスは足下のナイフを拾う。
両の手でしっかりと正中に構えを取った。
どこかで基礎でも学んだことがあるのだろうか?
構えそのものは悪くない。
周囲のバンパイアも感じ取ったのか、笑い声はぴたりと止んだ。
「・・・・・・筋は悪くなさそうだ・・・・・・」
久々に教えがいの有りそうな気配。
教官としての立場が長すぎたため、最近新入りを見るとそんな見方をしてしまう。
「ごちゃごちゃうるさいよ!」
本気の殺気を向けてきた。
真っ直ぐに、どこまでも真っ直ぐに突っ込んでくる。
綺麗な太刀筋が、一瞬前までの俺の心臓を狙った。
「気合いも、悪くない」
「っ!?」
振り返り様に横凪にした腕を、正確に掴み上げた。
「だが、真っ直ぐすぎる。実践向きじゃないな」
「なんっで!?あんた目が見えないんじゃ・・・・・・っ!?」
「あぁ、まったく見えん。だが戦い方は体が覚えている。光はないが、空を切る音や臭い、風の流れで大体わかる」
「嘘だっ!」
「嘘なものか。疑うならもう一回かかってきてみろ」
「くそっ!!」
トン、と二歩ほど間合いを開けて再び構えを取る。
ダリウスも先ほどよりもよほど警戒してナイフを握りしめた。
「やっ!!」
「甘い」
「くそっ!」
「どこを狙っているんだ?そんなんじゃ俺は殺せないぞ?」
「バカにっ!してっ!!!」
そんなやりとりを、何十回と繰り返した。
ダリウスが疲労で立ち上がれなくなるまで、繰り返した。
□■□
「・・・・・・・・・それで、俺はお前の師匠として認めてもらえたかな?」
「・・・・・・っ、は・・・・・・っ!・・・その、言い方・・・・・・すっげ、ムカつく!!」
「それだけ減らず口が叩けるなら問題ないな」
「く、そっ!」
「そういうわけで、これからよろしく頼む」
地面に転がったままのダリウスに手を伸ばした。
「・・・・・・あんた・・・・・・ホントは目、見えてんでしょ・・・・・・?」
「ん?正真正銘の盲目だぞ」
「ぜ、ったい・・・・・・嘘だ・・・・・・」
僕、あんたのこと絶対信用しないから・・・・・・
そう言い残して、ダリウスは疲労で潰れてしまった。
いつだったか、ラーテンもそんなことをダレンに言われたと愚痴っていたことを思い出す。
師弟というのは、そういうやりとりが付き物なのかもしれないな。
苦笑しながら、バネズは寝こけてしまったダリウスを抱え上げた。
ファースト・インプレッション
傷師弟の出会い編。
私は!ただただ傷師弟を広めるのだ!
書きまくるぞ!
うおおおおおおっ!
2011/01/29
※こちらの背景は
clef/ななかまど 様
よりお借りしています。