Xxx



一緒に過ごすことのできなかったクリスマス。
僕の手元に残ったのはあの時に渡されたおもちゃのようなリングが一つ。

それから

ゴミ箱に捨てられていた僕宛のクリスマスカードが一枚。


マーロックとの死闘を終え、総ての痕跡を消すためデビーの部屋をくまなく掃除した。
血痕を落とし、足跡を消し、臭いを消した。
最後に飾られることのないまま部屋の隅に放置されたツリーを飾りつける。
デビーがどのような飾り付けを好むかはわからなかったから、シャン家の飾り付けにさせてもらった。
「気に入ってくれるといいけど」と思う反面、「僕のことを思い出さずにいてくれたらいい」とも思う。
驚くくらい身勝手なことだ。
こんな、繋がりを残そうとする行為をしておきながら一方的に別れを告げる。
僕はどうしたいんだろう。
どうしたかったんだろう。
「ごめんね?」
寝ているデビーに呟いたところで届くはずもなく。
ましてや僕自身に回答が見つかるわけでもなく。
まさに無意味な言葉だった。
さぁそろそろ行かなくちゃ。
下でクレプスリーが痺れを切らしてしまう。
エブラだっていつまでも放って置くことなんてできない。
さよならは言わなかった。
言っても届かないことはわかっていたし、出来ることなら届けたくなかったから。
黙って僕は立ち上がる。

(・・・・・?)

ふいに目に留まったごみ箱。
その中にぐしゃぐしゃに丸めて捨てられた一枚のカード。
悪いと思いつつもそれを拾い上げ、丁寧に一つ一つ皺を伸ばしていく。

僕宛のクリスマスカードだった。

内容はこれといって変哲もない、ごく普通のカードで。
どこか特徴的な部分を挙げろといわれれば、水滴によっていくつか滲んだ部分があることと、末尾の3つのX。
どんな意味なのか僕にはよく分からなかった。
僕はそのカードをこっそり持ち帰ることにした。
ごみ箱に有ったということは所持権を放棄したということだし、何より僕宛のものだ。
僕が貰っても罰は当たらないだろう。
どうしてデビーがこのカードを僕に渡してくれなかったのかわからないけれど、やっぱり僕は一つでも多くデビーと繋がるものを持って置きたかった。

「メリークリスマス」

小さな呟きを残して僕は部屋を後にした。





それから10年以上の時間を越えて、僕らは再会した。
また出会えるなんて思ってもいなかったし、彼女が未だに僕を好きでいてくれるなんて思いもしなかった。
ただティーンエイジャーの姿の僕と恋人同士になることにはいささか難色を示した。
仕方がない、と思う。
好きならそんなの関係ない、と思う。
どちらも本音だった。





そんなことを思い出したのは僕の2度目の純化が起こった時だ。
今も昔も感情を割り切れないのは同じと思うと自分の成長の無さに悲しくなる。
はぁ、と小さくため息を吐いたのにデビーはそれに目ざとく気づく。

「どうしたの?ため息なんかついて」

純化することが嬉しくないの?
少し心配そうに尋ねてくる。
それに対して僕は首を横に振って答えた。

「違うよ。ただ・・・・・・見た目が成長しても中身が成長しないんじゃぁしょうがない、って思ったんだ」
「なんだ、そんなこと」
「そんなことって何だよ」
「そう思えることが大人になったっていうことなのよ」

経験者が言うことなんだから間違いないわ。
デビーはほんのちょっと照れくさそうに言う。
その顔は少女のようだった。
何も知らない時のように無垢で、だけれども勇敢で。
つまり大人になるということはこういうことなのかもしれない。
僕は漠然とそう思う。

「・・・・・大人か・・・・・」
「案外実感無いわよね」
「本当に。大人って・・・・・・なんて言ったらいいかわからないけれど、もっと別のものだと思ってた」
「小さな頃に想い描いていたものはなんだったのかしら?」
「さぁ?大方夢でも見ていたのさ。きっとね」
「そうね・・・・・・そうかもしれないわね」
「僕らが見てきた大人も、皆こんな思いをしていたのかな・・・・・」

思考の隅に赤い影が過ぎる。
僕がずっと追いかけ続けた理想。
今はもう見ることの叶わないあの背中に少しでも近づけていればいい。
それを確かめる術なんて無いのだけれど、それでも僕はあの人を想う。

「ダレン。今誰のことを考えてた?」
「え・・・・・あ、いや・・・・・」
「まさか恋人を差し置いて別の人のことなんて考えてないわよね?」

頭の中を見透かされたようだった。

「・・・・・ごめん・・・・・」
「まぁいいわ。そうね・・・キス一回で許してあげる」
「・・・・・・・・え・・・・・・・?」
「どうしたの?してくれないの?」
「いや・・・・・・だって・・・・・・前はさせてくれなかったじゃないか」
「あの時はね。でも今は違う」

デビーが僕の首にそっと腕を絡めた。

「私たちはもう子供じゃないのよ」

挑発的な目で僕を誘う。
僕もデビーの腰に手を添える。
唇を寄せようとして、ふと思いとどまる。

「・・・・・・デビー、どうしてあの時クリスマスカードを僕にくれなかったの?」
「子供だったからよ」

なら、今は?
・・・・・・・・・・これが答えよ。


そっと唇が合わさった。









Xxx ⇒ キスマーク の意。

With love的な意味合いがあった気もするけどココでは純粋にキスと捕らえてます。

二度目の純化のときに何も無かったとは思えない。

邪推ながら11巻の間幕妄想でした。

2009/11/10





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




※ウィンドウを閉じる※