Very well



「お前らバンパニーズは大王には逆らえない。そうだな?」

目の前の男が嬉しそうに問う。

「はい」

簡潔に肯定を示した私に、男は更に質問を続ける。

「つまり、俺の命令に従順に従う僕と言うわけだ」

正確な意味では僕などではない。
ただ、反論もなく付き従うという観点においてその形容はあながち間違いではないのかもしれないと思う。
ならば、やはり私が口にするのは肯定の言葉しかない。

「仰るとおりです」

男は至極嬉しそうだった。
心の底から湧きあがっている歓喜を隠そうともしない。
どうせろくでもないことを考えているに違いない。
この男は、そういう生き物だ。

「例えば、俺が今『死ね』と命令すればお前は死ぬわけか」

やはりろくでもない問いだった。
私は決まり文句のように言葉を続ける。

「御命令とあらば、喜んでこの命を差し出しましょう」

そうすればこんな不快な男に付き従わなくて済む。
願ったり叶ったりだ。

「なるほどな・・・・・・」

男はほんの少しの間口を閉ざし、何かを思案しているようだった。
それから、とても良いことを思いついたという顔をして。
まるで最高の悪戯を思いついた子供のような無邪気さで。
私に尋ねる。

「なぁガネン。お前、バンパイアの兄がいるらしいな?」

どこから情報を仕入れたのかは知らないがそれは事実だ。
何十年も前に道を違えた兄はバンパイアとして生きている。
多くはないがこの事実を知っている者も居る。
ならばこの男が誰かから聞きだすことは容易いことで、『一体誰が・・・』などと詮索をする気はさらさらなかった。

「えぇ、確かに兄はバンパイアです。それが何か?」

そうかそうか、と男が嬉しそうに笑う。
何がそんなに面白い?
何がそんなにお前を喜ばせる?
視線に訴えても男は気づいていないのかそれとも気にしていないのか何の変化も示さない。
そのうちに男はニタァ、といやらしく笑った。


「お前は兄弟を殺せるか?」


これは質問などではない。
私が答えるべき回答が一つしかないならこれは命令と同じだ。


兄上、私はこの生き方に納得しているわけでは有りません。
しかし間違っているとも思ってはいません。
たとえ兄上に蔑まれる様な道を辿ることになったとしても、きっと後悔など感じることはないでしょう。
あの日、兄上がバンパイアとしての生き方を選択したように、私もバンパニーズとしての生き方を選んだのです。
我等が尊重すべきは兄弟などという儚い繋がりではなく、それぞれの種族に対する従属の念。
我等があるべき通りに存在することこそ、もっとも尊重すべきことだと思うのです。
兄上と敵対するのは本意ではありませんが、仕方のないこと。
たとえ兄上を殺す結末が待っていようとも、私はバンパニーズのしがらみと共に生きる。
己の心に、バンパニーズのあり方に、従うだけ。


そう、これは命令だから。
私はバンパニーズだから。
この男が大王だから。

だから

恭しく傅いて答える。


「・・・・・・大王の御心のままに・・・・・・・」


お決まりのように肯定の意を唱える。

私に否定は許されてはいない。









Very well ⇒ 承知しました の意。

しかし内容としては『承知させられました』と言う感じ。

ガネンは本当に苦労人。

誰が好き好んで兄弟殺しをするものか。

2009/11/04





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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