Quak in my boots
夢を見た。
ひどく漠然としていて、断片的にしか記憶に残っていなかった。
しかしソレが悪夢であるということだけはしっかりと脳内に刻まれていた。
飛び上がるように身を起こせば全身ぐっしょりと汗で湿っている。
ブルッと寒気に体が震え、額に溜まっていた汗が頬を伝って顎先から落ちようとしてる。
緩慢な動作で右手を持ち上げ、今にも肌から別離しようとしている雫を拭おうとしたその時。
自分の手が小刻みに震えていることに気づいた。
手だけではない。
腕も、足も、唇も、全身どこもかもが総毛立ち震えていた。
何のことはない。
先ほどの震えは寒気などではなかったのだ。
(・・・・・・あぁ・・・そうか・・・・・・これは恐怖だ・・・・・・)
まるで他人事のように僕は思う。
体の奥底から感じる得体の知れない感覚に恐怖と言う名前をつけた。
正直なところ、それが恐怖でなくても良かった。
絶望であろうと、畏怖であろうと、悲壮であろうと、何でも良かった。
それが僕にとって好ましくないという事実は変わらないのだから名前などどうでもいいのだ。
無意識に名前を呼ぼうとして、喉がひゅうっと鳴った。
口内はからからに乾いていて、声音として発せられるはずの音はただの呼気と化す。
呼びたかった名前を唱えることは叶わなかった。
たったそれだけのことなのに、僕は無性に悲しくてこの広い部屋に一人取り残されたような錯覚に陥った。
それからどのくらいそのまま時間が過ぎただろう。
震えは一向に止まる気配はなかった。
地の底に叩きつけられるかのような下向きの感情だけが共にあって、本当にいて欲しい人はやっぱりいなかった。
仕方なしに僕は必死に記憶の回路を辿ることにした。
このような事態になるに至った原因であろう夢の回想。
早くも崩壊を始めている儚い記憶の糸を手繰り寄せる。
はっきりと思い出した時、僕はそれを後悔する。
ソレは、やっぱりどうしようもない悪夢でしかなかった。
震えは止まるどころかひどくなる一方だった。
程なくして一人の男が窓から侵入してくる。
今日はたっぷりと『食事』にありつけたのか、傍目にもわかるほどご満悦な顔をしていた。
ベットにいるはずの僕がいないことに気がつき視線をめぐらせ、部屋の隅で身を潜めて震えている僕を見つけると元々青白い顔が更に血の気を失った。
「どうしたんだよ死人みたいな顔をして」とからかってやろうかとも思った。
ふと視界に入った鏡に映る自分を見ると、そのときの僕はそれ以上にひどい顔色をしていて笑えなかった。
男は慌てて僕の元に駆け寄り、心配そうに問うた。
「・・・・・・どうした?・・・・ダレン・・・・・」
やっと聴けた声に、僕の涙腺は崩壊する。
「なんでもないよ・・・・・・ただ・・・・・・」
あんたがいなくなる夢を見たんだ。
ただそれだけのことなのにどうしようもなく不安で、どうしようもなく怖かった。
こんなにも悲しいことだなんて思わなかったんだ。
ねぇ・・・・・お願いだから僕を一人になんてしないで・・・・・・
Quak in my boots ⇒ がたがた震える の意。
例え夢であっても、別れる夢なんて見たくない。
クレプスリーに依存するダレンな感じ。
こういう日に限ってクレプスリーはダレンを『食事』に誘わないんだよ。
2009/11/05
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。