Put up or shut up
「・・っは、・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
「・・・・・もう息切れなの・・・・?」
「・・・・・うるさいわ・・・・・・」
「あんたも年なんじゃないの?」
冗談交じりに言ってやる。
実際クレプスリーは200歳近いはずだ。
もっともそれは生きてきた年月というだけで、肉体的にはまだまだ壮年期といって差し支えないだろう。
なのにこんなにも息を切らしているのはそれだけ力を浪費しているということだ。
「フリットは恐ろしく体力を使うと言っただろうが・・・・・・・」
ぜいぜいと肩で息をしながらその場にへたり込んでしまう。
額には汗が滲んでいるし、疲労の色はくっきり顔にも現れていた。
人間の何倍も体力があるはずのバンパイアがここまで疲弊すると言うのもなかなかめずらしいもの。
へたり込む前に背中から飛び降りた僕は、すっかり疲れきっているクレプスリーをまじまじと眺めた。
(そんなに疲れるならしなきゃいいのに・・・・・・)
ごく当たり前の感想を胸中で述べる。
僕たちは急ぐ旅路についているわけではない。
時間なんてそれこそいくらでもあるのだ。
ゆっくりのんびり歩いたらいいじゃないか。
「どの口がそんなことを言うんだね?シャン君」
あ、考えていることを読まれた。
昔は本当に心を読まれていると思ったのだが、どうやら僕は考えていることが顔に出やすいようで大抵のことは言葉に出さなくても(クレプスリーへの悪態は特に)伝わってしまう。
なので別段驚くこともなく返事を返した。
「はいはい。おんぶしてくれてありがと」
「お前には師を敬おうという気がないのか!」
「多少あるよ。・・・・・・・・・・多分だけど」
あぁ。
そういえばのろのろ歩いていくのは嫌って文句を言ったのは2日位昔の自分だった気もしてきた。
そりゃぁクレプスリーも文句の一つも言いたくなるのもしょうがない。うん。
「なんて手下だっ!ほれ!さっさと血のボトルをよこせ!」
疲労も手伝ってか少しいらいらした様子で手を出してきた。
少しだけ僕が悪かったかな、と思うところもあったので素直にバックの中のボトルを探る。
今日だけでもうボトルを4本も消費している。
空っぽのボトルがバックの中でカチャカチャぶつかり音を立てた。
大分空ボトルが目立つようになってきたな。
本当に危ない時に備えて少し消費を抑えないといけないな・・・・・・。
なんて考えたたら横から手が伸びてきてあっという間にボトルを奪われてしまった。
「あっ!?」
「お前がのろのろしてるからだ」
残りの道程と残量の計算をしていたのになんていい草だ!
食糧管理は手下の仕事だって言ったのはあんたじゃないか。
こちらの考えなどお構いなしにぐびっと一気に血を煽るクレプスリー。
まるで極上のワインを飲み干したかのような至福の表情をしている。
弟子の心、師知らずとはまさにこのことだ。
「おぶさっているだけのお前は楽だろうが、我が輩は疲れるんだ。
お前が自分でフリットしてくれたらどれだけ楽なことか」
何の気なしに。
多分悪気も何もないのだと思うけれど。
クレプスリーが言ってのけた言葉がぐさりと僕の心臓に突き刺さる。
だって、フリット出来ないのは僕のせいじゃない。
おんぶされているしかないのは僕のせいじゃない。
それなのにこんなことを言われたら、僕に返せる言葉なんて一つしかないじゃないか。
「だったら僕を置いていけばいいでしょ」
そしたらあんたの苦労は半分だ。
どうせ僕はフリットも出来ない半バンパイア。
もう人間社会で暮らすことも出来ない、かといってまだバンパイアとして一人では生きていかれないハンパ者。
こんな面倒くさい手下なんて置いてさっさと独りで行ったらいいんだ。
邪魔ならさっさと見切りをつければいいじゃないか。
あんたの迷惑になるくらいなら独りでのたれ死んだほうがマシだよ。
さてさて。
どこまで言葉にしたのかは自分でもよく分からない。
それでもクレプスリーはどことなく決まりの悪そうな顔で「・・・・あ・・・・・」とか「・・いや・・・・」とかを繰り返している。
何度かもごもごさせた後。
「・・・・・・・少し休んだら先を急ぐぞ・・・・・」
これ以上シルク・ド・フリークと距離が離れたら今日中にたどり着けなくなる。
クレプスリーは言い訳がましく、つらつらそれらしい理由を並べた。
僕もあえてそれ以上は言及せずに素直に応じることにした。
「はーい。もうひとっ走りがんばってくださいな」
「他人事だと思いおって・・・・」
「おぶさっている方だってそれなりに疲れるんだからおあいこだよ」
「そんなものでおあいこと言われて納得できるか」
「じゃぁシルク・ド・フリークに着いたら真っ先にあんたのためにシチュー作ってやるよ」
「む・・・・・・・・・まぁ・・・・・・・それなら・・・・・・・」
「はいはい。交渉成立!さー頑張っていこー!!」
「こらっ!もう少し休ませんか!!」
「急がないとシルク・ド・フリークはどんどん先に進んじゃうよ!」
Put up or shut up ⇒ 出来ないなら黙ってろ の意。
フリットできずにクレプスリーにおぶさってるしかないダレンと
疲労度ハンパないけどダレンを置いて独りで先には行けないクレプスリー。
お互い出来ないとわかっていて口げんかしているとしか思えないよこの親子。
二人はきっとお互いどんな言葉が禁句なのか分かり合っていると思う。
その上での口げんかって。それただの痴話げんかじゃねぇ?
2009/10/16
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。