In imitation of my brother



「パパっ!たすけてっ!!リリアが!!」

涙を瞳一杯に溜めて、アーチャがトレーラーに駆け込んできた。
全力疾走してきたのだろうアーチャは肩で息をしており、今にも零れ落ちそうな涙を必死で堪えている。
夜の公演に向けて準備を進めていたエブラは我が子の尋常でない様子を感じ取り慌てて駆け寄った。

「どうしたアーチャ!?」

シルク・ド・フリークでは誰であろうと、団員全員に年齢相応の仕事が任せられる仕組みになっている。
もちろんそれはエブラの二人の子供、アーチャとリリアも同じだ。
二人は今、フリークで飼っている動物類一切の世話をしているはずだった。
彼らはココで生まれココで育っている。
ココでの生き方は十分理解しているはずで、仕事を途中で投げ出すような躾もしなかった。
だからこそよほどのことがあったのだとすぐさま察することが出来た。
何があったのか詳しく聞きだそうとするが、とうとう堪えきれずに零れ出した涙にしゃくりあげてしまい上手く喋れない。言葉を綴ろうとすればするほど意味のない単音となってしまう。
いてもたってもいられず、エブラはトレーラーを飛び出した。



「リリア!!」

娘がいるはずの動物飼育テントの幕を勢い良く跳ね上げる。
このテントは広い。総ての動物がこの一箇所に集まっているのだ。
我が子がどこに居るのかわからない。
右に左に視線をめぐらせるがその姿は見えない。

「リリア!どこに居るんだ!?」

もう一度名前を叫ぶ。
すると、うぅ・・・・・と小さく唸るような声が聞こえた。
奥の檻だ。
声のした方に足を早める。
テントの一番奥、相棒の大蛇の檻の前に、うずくまる小さな影があった。

「どうした!?」
「・・・・・・・パパ・・・・・・・」

駆け寄って抱き上げれば、ポタリ、と赤い雫が地面に落ちる。

「怪我したのか?」
「・・・・違う・・・・違うの・・・・」

小さな手で必死に傷口を隠そうとするが、指の隙間から次々と血が流れ落ちていく。
落ちた先にあったのは血の跡だけではなかった。
見覚えのあるミドリ色のソレ。
忘れていたはずの痛みがズキリと右肩に走る。

「・・・うろこ、どうしたんだ・・・・・?」
「私がしたの・・・・・・・私が・・・・自分ではがしたの・・・・・」
「・・・・・なんで・・・こんなことを・・・・・」

思い出す昔の記憶。
無理矢理はがされたあの地下水路での出来事。
思い出したくもない恐怖と苦痛。
だからこそわかる。
この痛みは、こんな風に我慢できるものじゃないんだ。
なのにリリアは声を押し殺す。
泣いてはいけないとばかりに。
まるで、そう自分に強いているように。

「・・・・・・・アーチャお兄ちゃんが私を見て『シャンカス兄ちゃん!』って言ったの・・・・・・・・
 でも私だって気づいたらすごくすごく悲しい顔したの・・・・・・
 だから私がいけないの!私がシャンカスお兄ちゃんと同じだから!私だけ同じだから!
 こんなうろこ全部はがしてアーチャお兄ちゃんと同じになればもう悲しい顔しなくて済むでしょ?」

弱弱しくリリアが笑う。
笑う。









In imitation of my brother ⇒ 兄をまねる の意。

12巻終了後捏造ですのでシャンカスはいません。

リリアは女の子だけどまだ幼いからシャンカスと被るところが多いと思う。

だからたまにアーチャは見間違えるんだよ。

シャンカスが戻ってきた!って。

そうなって欲しいと思っているから、見間違えてしまうんだよ。

ちなみにアーチャが悲しい顔をするのはシャンカスじゃなかったからではなく、

妹を見間違えた事への罪悪感です。

2009/10/04





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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