Give as good as you gets



ばたばたと廊下をせわしなく走る音がする。
元が洞窟なだけに、バンパイアマウンテンの中は音がよく反響する作りだ。
娯楽の間などもともと騒がしくなることが前提の部屋は防音加工してあるのだが、廊下はそうはいかない。
どんなに加工したところで次から次に出来る横穴のせいで防音は意味を成さなくなる。
そんなわけで廊下で発せられる音は気持ちいいくらいによく聞こえるのだ。

ばたばた走る音は次第に大きくなる。
その足音からどれだけ慌てているかが察せられる。
音は更に大きくなり

バタン!

この部屋のドアが開く音と共にぴたりと止んだ。

「ダレンっ!!」
「静かに。大丈夫だラーテン。命に別状はない」
「そうか・・・・・」

部屋に飛び込んできたオレンジ髪の男は肩で息をしながらも、ほっと肩の力を落とした。
大方、手下が盛大に打ちのめされたと聞いて大慌てに慌てて駆けつけたというところだろう。
先に部屋にいた金髪の男は、いつもは冷静沈着を貫いていたはずの男の慌てように思わず微笑む。
以前であればこのような表情を見せることはなかっただろう。
逢わなかったたかだか50年の間によくもまぁココまで様変わりしたものだ。
こうまで変えたのは今横でぐっすり眠っている半バンパイアに他ならない。

(まったく、たいした影響力だ・・・・・)

まだ深い眠りの中にいる少年の髪を優しく撫でる。
まだ20年も生きていない子供なのに。
いや

(子供だから・・・・・・か)

いつだって時代を変えていくのは新しい力だ。
この子にはそれだけの力を秘めているんだ。

「・・・・・久しぶりね。ラーテン」

そしてココにも、この子供によって変わった者が一人。
黒髪を奇麗に結い上げた女が口を開いた。

「エラ・・・・・」
「言っておくけど」
「わかっておる。どうせこやつが無謀にもお前に挑んだのだろう?」
「・・・・・そうよ。確かに挑発はしてしまったけれど・・・・闘うことを選んだのはこの子よ」
「それで手加減なしに打ちのめしてやったというわけか」
「・・・・・確かに少しやりすぎたと思ってるわ・・・・・」
「構わん。この無鉄砲者は一度痛い目を見るべきなのだ。今回のことで己の未熟さを理解しただろう」
「そいつはどうかな」
「・・・どういう意味だ?カーダ」
「なんてことはない。あのエラがダレンと握手したってだけさ」
「エラが握手!?ダレンとか!?」
「ダレン以外の誰を握手をするって言うのさ」
「エラっ!」
「・・・・・本当よ・・・・確かに握手したわ」

女は静かに一度頷いて肯定の意を示す。

「正直戦闘力という点では私の足元にも及ばないわ。
でもね、ラーテン。この子は立派なバンパイアとしての生き様を示したのよ」
「しかしだな、エラ!」
「この世界において必要なのは闘い抜く力よ。
女・子供だから、なんてそんなのただの言い訳。
誰であろうと庇護下に納まらず生き抜く態度を示すことが何よりも大切なの」
「・・・・それは経験論か・・・・?」
「えぇそうよ。そうやって私は生きてきた」
「そしてダレンの中に在りし日の自分を見たってとこか」
「・・・・・本当にダレンの方がよっぽどバンパイアしてるわ」

女は金髪の男を一睨みする。
冷やかした男は大慌てで女から視線を外した。
これ以上睨みを利かせても仕方ないとばかりに、女は一つ息を吐いてから今度は黒髪の少年に視線を投げやった。

「この子を認めてあげたかったの。だから握手した」
「?認めたから、ではなくてか?」
「まだまだよ。メンタル面では一丁前に私に張り合ってきたけれど、実際はまだまだ」

ただ、教えてあげたかったの

「その生き様は間違いじゃないって」









Give as good as you gets ⇒ 互角に戦う の意。

正確には互角だったのは勝ちへの執念だけだった気もしないでもない。

でもきっとエラはダレンと自分を重ねて見たと思うんだ。

自分に力があると示したいって感じているのは

女性バンパイアのエラと半バンパイアのダレン共通の想いだからね。

2009/09/27





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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