Fight a losing battle



いつもの密会場で顔をつき合わせて作戦を確認する。
何ヶ月も掛けて計画してきたものだ。
もう総ての内容は頭にインプットされている。
後は作戦を実行するだけというところまで来ている。
実質、これが最後の作戦会議となるだろう。
彼と次に顔を合わせるのは作戦終了後。

その前にどうしても彼に確認しておきたいことがあった。
何度聞いても、何度聞かされても理解できなかったことを、最後にもう一度聞いておきたかった。

「本当にいいんだな?」
「あぁ。考えうる最善の策だからな」
「そうじゃなくて」
「・・・・・・・・それ以外に何があるんだ?グラルダー」

わかっている。
こいつはわかっているんだ。
俺が何を言わんとしているかが。
だからこうして分からないフリをして煙に巻こうとしている。

「誤魔化すな。お前のことだ」
「俺の方も何の心配もないよ。ぎりぎりながらも元帥昇格は確定だ。計画に支障はない」
「だから!」
「そういきり立つなよ」

バン!と机を叩いて立ち上がる。
言ってやりたいことは山ほどある。
山ほどありすぎて言葉が出ない。
ぐるぐると感情だけが俺の中を巡っていく。

「座れ。グラルダー。・・・・・言いたいことはわかっている・・・・・」

寂しそうに笑って、カーダが促す。
俺自身立ち上がったからどうしたいということがあるわけでもなかったから座るしかなかった。
乱雑に引いた椅子がギシっときしむような音を立てる。

「じゃぁ言ってくれ。お前は何をわかっているというんだ、カーダ?」
「・・・・今回の計画は俺たちが当初望んでいた対等な和平関係じゃない。
バンパニーズへの吸収合併のようなものだ。
だが、バンパニーズ大王が現れてしまってはもう時間がない!
少しでも早く二つの一族をまとめなければ本当に手遅れになってしまう。
両者への多少の犠牲はやむを得ない。
それが得るための代償というものだろう?
どんな形でアレ、生きていれば次への道が切り開ける。
一時バンパイア一族はバンパニーズとして生きることになるが、誰かが新たな方法を思いつくかもしれない。
もう一度バンパイアとして生き、そして本当の意味で両者が分かり合える日が来るかもしれない。
現にバンパニーズだった者がバンパイアに変わった例はある。
言うほど簡単な行為ではないが、絶対に不可能じゃないんだ。
ほんの少しでも可能性があるなら、それに掛けてみるべきだろう?」

「・・・・・・・だから、お前はわかっていないと言っているんだ・・・・・・」

吐き捨てるように呟く。
今度こそ本当に椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がりこの部屋唯一のドアへ足を向ける。

「作戦会議は終わりだ。後は当日まで接触しない、それでいいな?」
「まだ話はっ!」
「もう何十度も確認してきたことだ。失敗のリスクはあっても抜けはない」
「・・・・・・それはそうだけど・・・・・」
「なら時間の無駄だ。こうして接触していることがばれるだけでも作戦に影響が及ぶ」
「わかってるよ!」
「・・・・・・カーダ・・・・・・」
「なんだよ」
「・・・・・いや、なんでもない」

俺は後でふてくされているであろうカーダを振り返ることもなく、部屋を後にする。
後ろ手にドアを閉め、そのままその場にへたり込む。
ドアに背中を預け、廊下を薄暗く照らすランプを仰ぎ見る。
ジジ、ジジと微かな音を立てるそれは、まるで誰かの灯火のように今にも消えそうなほど弱弱しかった。

「生きていれば・・・・だと・・・・・?
死に行く未来しかないお前がよくもまぁそんな言葉を吐けたもんだな・・・・・」

勝っても負けても待ち受けるのは絶対の死。
バンパイア一族に殺されるか、バンパニーズ一族に殺されるか、ただそれだけの違いしかない。
そんなお前が言う言葉など、総て狂言に過ぎない。

「・・・・それで得られた一族の存続のどこに、お前の幸せがあるというんだ・・・・・・」

答える人はいない。

ジジ、ジジ、ジッ

とうとうランプが燃え尽きる。

俺はゆっくりと目を閉じ、静かに唱える。

「死してなお、勝利の栄冠に輝かんことを」









Fight a losing battle ⇒ 負け戦を闘う の意。

死ぬ未来しかないとか背水の陣にも程がある。

きっとグラルダーは何度もカーダを説得しようとしたんだろうな。

「それじゃぁ意味がない!」って。

カーダはカーダで「一族を救う以外の何の意味がいる?」

って言って突っぱねてきたんだろうよ。

そうやって平行線を辿ってきた二人。

2009/09/27





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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