Even though he died



「あんたのせいよ・・・・・・・」

低く、唸るような声が聞こえた。
マーラだ。

「あんたがシャンカスを殺したのよ!!!」
「マーラ・・・・・まさかこんなことになるなんて・・・・本当に・・・・」
「っ!!!」
「!!」

マーラが僕に飛び掛った。
ふいの接触に、僕の身体はたやすく地面に転がる。
馬乗りになる彼女はその瞳一杯に涙をためて拳を叩きつけてきた。
何度も何度も。
あんたのせいで、と繰り返しながら、叩き続ける。
僕は抵抗しなかった。
抵抗なんて出来なかった。
あの時僕がシャンカスの命を最優先に考えていたら、あの子は死なずに済んだんだ。
僕が手を掛けたわけではない。
でも
僕が殺したも同じだ。
一族を優先した僕の判断が、シャンカスを殺した。

ぽたり

雫が頬を打つ。
これはなんだったろうか。
あぁそうだ、これは涙だ。
悲しいという感情だ。
ほんの少し前まで、僕はこの感情を知っていたはずなのに。
どうして僕はあの時、想い出せなかったのだろう。
大切な人を失う悲しみを。
家族を失う悲しみを。
悲しむ人を生む悲しみを。
嫌というほど知ってたはずなのに・・・・・。

「殺してやる!!あんたなんか殺してやるから!」

団員とはいえ、女の拳ではバンパイアに効き目がないと悟ったのか、マーラは躊躇なく僕の首に手を掛けた。
喉仏の少し横。
頚動脈にグッと力が加わる。

(あぁマーラ・・・・・そうだ・・・・・もっと力を込めて・・・・・もっと・・・・・・・)

死んでしまえばいいんだ。
僕なんて。
親友の子供を見殺しにするような悪魔の魂を持った自分など、今ココで死んでしまえばいいんだ。
何の解決にもならないけれど、少しだけ楽になれるのなら。
僕の息の根など止めてしまえばいいんだ。
さぁもっと力を入れて。
そんなんじゃ僕は殺せない。
もっと、もっと、もっと、もっと・・・・・・・


「あなたのせいじゃない」


はっ、と目を見開く。
・・・・・今、なんて・・・・・・?

「あなたをうらんでない・・・・・悪いのはスティーブよ、あなたじゃない」

涙をこぼしながら、マーラは言う。
首に掛けられた手には力は込められていない。
スティーブに悟られないようフリだけ続けながら、蚊の泣くような小さな小さな声でマーラは言う。

「あたし達抵抗しなかった・・・・・腰抜けだと思われてる・・・・・
・・・・みんなあなたを待ってた・・・・・あなたが来て指揮をとってくれるって・・・ハーキャットが言ったから
その時が来たら合図して・・・・・・全員命をかけて闘う覚悟ができてる・・・・・・」

弱弱しく、マーラが笑う。
その後にはリリアとアーチャの姿もある。
決して勢い勇んだ顔ではない。
恐れ、恐怖といった感情が端々から感じられる。
けれど、子供だてらに覚悟を決めた強い意思を感じる。
更にその後。
二人の我が子を胸にかき抱くようにしてじっとこちらを見つめる眼。

親友、エブラだ。

シャンカスを失った悲しみに耐えつつ、僕を信じてくれている。
シャンカスが死ぬきっかけをつくった他ならぬ僕を信じてくれている。



・・・・・見てる?トール・・・・・・・
貴方が守った城は、家族は、こんなにも強く生きてる。
なんて温かく、なんて優しいのだろう。
貴方はこの光景を見たことはある?
こんな未来を、貴方は見られた?

マーラの怒りと、優しさと、つらさ。
いろんなものが取り巻く中で自分を見失わない強さ。
それがトールが今までにシルク・ド・フリークで築き上げた家族の絆の強さなんだね。
シャンカスを失った悲しみをぶつけたのも本音。
僕が悪くないといったのも本音。
そして、僕を信じてくれたのも本音。

殺したいくらいに憎んでいるはずなのに。
殺されてもいいと思えるくらい、憎まれて当然なのに。
笑って、背中を託すエブラの目に迷いなどなかった。

貴方は死んだ。
でも、貴方が築いた城は確かにその遺志を受け継いでいる。
貴方は死んだ。
それでも、貴方が命をとして守ろうとしたものは今も生きている。
強く強く、弱さに打ちのめされないように懸命に両足を踏ん張って立っている。
貴方が生きた証は、間違いなく彼らの中で息づいている。









Even though he died ⇒ 彼は死んだにもかかわらず の意。

団員が受けているトールの影響力って凄いと思うんだ。

団員の存在そのものが、トール存在の証。

そんな風に育ってくれた家族のことを、どこかで見ていてくれたらいいな。

2009/09/24





※こちらの背景は ミントblue/あおい 様 よりお借りしています。




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