Depart from this life
「死してなお、勝利の栄冠に輝かんことを!!」
高らかに叫んだ声は虚しくバンパイアマウンテンに響いた。
裏切り者の言葉になど誰一人耳を傾けない。
それでいい。
それで構わない。
この声など誰の耳に届かなくてもいい。
俺のことなど、誰一人覚えていなくていい。
ただ、
願わくば。
願わくば、この声が枯れようとも、この身が朽ちようとも。
この遺志だけは朽ちぬよう。
覚えていて欲しい。
この心を。
この想いを。
ただただそれだけを願いながら、俺は黒々とした闇に広がる無数の針山にその身を投じた。
後悔することは山ほどある。
やりたかったこと。
やれなかったこと。
しもせずに諦めてしまったこと。
手も届かなかったこと。
今になって思いつくこと。
この身体は朽ち果てるだけだというのにいくつもの想いはその最後の一瞬まで思考する事をやめなかった。
もう一度やり直すチャンスがあるとしたら、俺は一体何を望むのだろうか?
一体何をやり直したいと思っているのだろう?
考える。
人間でいることか?
バンパニーズと協定を結ぼうとしたことか?
彼らと共に血の石を奪おうとしたことか?
親友のガブナーをこの手に掛けたことか?
無理矢理にでもダレンを川から引きずりあげることか?
処刑直前に抵抗することか?
考える。
違う。
そうじゃない。
そんなことじゃないんだ。
俺が望んでいるのはもっと別のこと。
そう。
たとえば。
あの子と、我等の希望と共に新しい時代を築くこと。
俺たちだけでは切り開けなかった道を、あの子ならば辿ることが出来るような気がするんだ。
運命を打ち破るような、そんな可能性を秘めている。
俺はそう直感した。
そうして俺の策はまさにあの子の手によって見事に打ち崩されたわけなのだが。
これから、あの子は俺たちが成し得なかった方法で時代を変えていくだろう。
半バンパイアでしかない子供によって、俺たちは変わっていく。
変わっていかなければ、俺が死んだ意味がない。
あぁ、
朽ちていくこの身体が恨めしい。
見たい。
あの子が築く時代を。
知りたい。
あの子が切り開く未来を。
嘆いたところでどうにもならないのはわかっているが、今の俺に出来ることは何も無いのだ。
嘆く嘆く嘆く。
呪文のように、何度も何度も嘆き続ける。
「お前の願いを叶えてやろうか?」
その時、俺は確かに悪魔の声を聴いた。
「その身体を、その心を、総てを捨て、私の手足となり仕えるというならばお前の願い、叶えてやるぞ?
さぁ、どうする?裏切り者のバンパイア、カーダ・スモルト」
命など、俺にとってそれほど優先順位の高いものではない。
この身体など
この心など
総て捨てることなど惜しくは無い。
唯一つ、この遺志を残せるなら。
遺志を継ぐ、あの子を見守れるなら。
何を捨てることも怖くは無かった。
「・・・・・・・あの子の元に・・・・・・・」
悪魔の声を受け入れるのに、さほどの時間は要さなかった。
Depart from this life ⇒ この生命に別れを告げる の意。
カーダとタイニーのやり取りってこんな感じじゃなかろうかと。
原作とかじゃあんまり詳しく描写されなかったので。
2009/09/23
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。