Crack a smile
運命的な再会を果たした夜、オレの気分は最高だった。
「「再会を祝して!!」」
高々と掲げたボトルを俺たちは打ち合わせた。
グラスではないからいい音はしない。
それでいい。最高じゃないか。
澄んだ音なんて似つかわしくない。
俺たちは深い深い闇底に生きる獣だ。
日を嫌い、日陰をこそこそと這い蹲るように生きる醜い化け物。
俺たちには、お似合いすぎる乾杯だ。
「なぁスティーブ、この15年どうしてたか・・・・・・そろそろ聞かせてくれないか?」
「ハハッ、やっぱ気になるか!?」
「イテテテテッ、傷口はたたくなって!!」
「・・・・そうだなぁ・・・・・あれから15年も経っちまったのか・・・・」
お前のこの笑顔はあとどのくらい持つのかな?
後何日、お前はそうやって無邪気に笑っていられるかな?
せいぜい今のうちに笑っておけばいい。
賽は投げられたんだ。
あの、15年前の夜に。
「あの墓場での出来事以来ずっと、オレはお前とクレプスリーを恨み続けていた」
かつての親友が、お前の倒すべき憎きバンパイア大王だと知ったらお前はどうするかな?
あの時のように、簡単にオレを裏切るのか?
いや、そんなことお前には出来ない。
お前はきっと躊躇するはずだ。
一度目の裏切りにどんな理由があったにせよ、俺を傷つけたことを今も覚えているお前は必ず一歩が出遅れる。
「オレは復讐のためバンパイアについての研究を重ね、16歳になったのを機に全てを捨てて、闇の世界に足を踏み入れたんだ・・・・」
なんて愉快なんだ。この15年、こんなにも気持ちが高揚したことがあっただろうか?
アイツに悪魔だなんだと罵られ、親友と思ったやつに裏切られたあの日以来、オレの気持ちはただひたすら闇底に沈んでいた。
何度も何度も死にそうな目にあった。
何度も何度も、諦めちまおうと思った。
「敵を倒すにはまず、敵を知ることだ。苦労の末、オレは数人のバンパイアを探し出すことに成功した。」
でもな。
運命だったんだ。
あの日お前に裏切られたことも
あの日オレがお前と敵対するバンパニーズの王だと悟ったことも
全てこうなるための序章でしかなかったんだ。
「でも彼らと話をし、親しくなるにつれ、オレはバンパイアが怪物ではないことを知った。」
想像するだけで最高の気分だ。
今すぐにでも言ったやりたい。
『バンパニーズ大王はオレだ』って
「バンパイアは命を尊び、血を飲めど人は殺さず・・・・・名誉を重んじる生き物だと知ったんだ。」
どんな顔をするかな?
絶望するお前を早く見たい。
悲惨なお前の姿を早く見たい。
「それでな、オレは自身を見直すようになったのさ。」
かつてオレが味わったものを早くお前に味合わせてやりたい。
そのためだけに、この地獄のような15年をたった一人で歩いてきたんだ。
早く
はやく
ハヤク・・・・
「で、気づいたんだ・・・・・怪物なのはバンパイアではなく、このオレのほうじゃねぇか、ってな・・・・」
でも、まだその時じゃない。
わかってる。
重要なのはタイミングだ。
もっともっとお前が苦しむ状況に追い込んでやるんだ。
「ようやくわかったのさ、お前とクレプスリーが・・・・オレを裏切ったんじゃないってな。」
最後の最後、ここぞという時にお前を貶めるんだ。
「それどころか、お前が全てをなげうってまで、オレの命を救ってくれたことを・・・・・」
舞台はもう整っている。
後は役者だ。
アイツがいないんじゃ舞台は開けない。
「・・・・・・・もう・・・・・・・僕のこと・・・・・」
「あぁ、恨んじゃいない・・・・・」
だから、今はまだお前の親友を装ってやる。
15年前、お前だけがオレの仲間だと信じていた頃のオレを演じてやるよ。
「今では感謝してる・・・・・・復讐なんてバカげてた・・・・・・」
お前は泣く。
声を押し殺して。
ほんの少しだけ、肩を震わせて。
それはうれし泣きだろうか?
でもな
オレが見たいのはそんな表情じゃないんだ。
もっと苦しめ。
もっと悲しめ。
もっともっと絶望しろ。
醜く歪むお前の顔を想像する。
あぁ
なんて、なんて・・・・・・
運命的な再会を果たした夜、オレの気分は最高だった。
Crack a smile ⇒ 作り笑いをする の意。
スチーブ・・・・・ちょう病んでる・・・・
あんな穏やかに笑ってる腹の中では相当黒いこと考えてたんだろうよ。
2009/09/19
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。