Blame me if we bend to distiny
「さて、ダレン・シャン。我が息子よ。今からもう一度お前に問う」
声だけが響く。
何も聞こえない、何も見えないはずのこの暗闇の中で、あいつの声だけが聞こえる。
僕の人生を弄んだ“運命”の声が。
「私の手を取れ。そうすればココから解放してやろう」
ココとはどこだ?
この暗闇は一体どこなんだ。
それすらわからない。
僕の知っている場所なのか?
それともタイニーの作り出した別次元なのか?
わからない。
わからない。
それでも、タイニーの声だけがやたらと明瞭に頭に響く。
例えるならそう、脳内に直接話しかけていられるような・・・・。
「迷う必要など無いではないか。ソコは苦しかろう?
お前を苦しみから解放してやれるのはこの私だけだと、本能でわかっているはずだ」
そう。
確かにココは苦しい。
自分ではどうすることも出来ない、暗い暗い水底。
無限とも思えるほど繰り返される、後悔の連鎖。
ここでできることは嘆き、悲しみ、絶望すること。
それ以外、何も赦されない。
この連鎖を断ち切ることが出来るのは運命をその手で弄べるタイニー以外にはいないだろうことは容易に想像ついた。
さぁ、とタイニーの声がする。
すると、それまで何も見えなかった深淵の中にぼぅっと光るものが浮かび上がる。
それが手であると理解するのにしばらく時間を要するくらい、この瞳がモノを映すのは久方ぶりだった。
「血は水よりも濃い。お前も本心では望んでいるはずだ。
平穏で安寧とした世界などではなく、恐怖と憎悪で満ちた世界を。そうだろう?我が息子よ」
そう、なのかも知れない。
あの時カーダの遺志を継がなければならないのは僕だったのに、結局僕は争い殺しあう道を選んだ。
それは“運命”にささやかれたからではない。
己の意思で、その道を選び取ったんだ。
多かれ少なかれ、僕のこの身にタイニーの血は流れているのだ。
混乱と破壊とをこよなく愛するものの血が。
「お前が覚醒さえすればそれは造作も無いこと。
人類はこれまでに味わったことも無いような最高の苦しみを享受するだろう。
お前にはそれだけの力がある。
私が与えた力が、本能が、お前の中に眠っているのだ。
さぁ、父にその愛を示しておくれ」
“運命”が手を差し伸べる。
僕に迷いは無い。
僕の心は、とうの昔から決まっている。
「悪いけど、お前を父親だなんて思ったことは一度も無い。
僕の父親はダーモット・シャン。
それから、ラーテン・クレプスリー。
この二人以外にありえない」
きっぱりと言い切る。
僕の意思を聞くやいなや、穏やかさを装っていたタイニーの声色が急変した。
「なんてやつだ!この私に命を与えてもらった恩も忘れておって!!
お前など二度と見たくない!永遠に精霊の湖に囚われるがいい」
・・・・・・そうか、ココは精霊の湖か。
ようやく納得がいく。
繰り返す後悔の記憶。
暗い水底に浮かんでは消えるつらい過去。
すべては湖が見せる嘆きと悲しみの時間。
あの死闘の後、僕はココに閉じ込められていたのか。
なら、あいつもきっとここにいるはずだ。
(答えてくれ・・・・・!!)
僕は心であいつに呼びかける。
あいつにはきっとこの声が聞こえるはずだ。
「ここにいる限りお前にはもう何も出来ない」
心の手を虚空に伸ばす。
・・・・・いた!
「・・・・・タイニー・・・それは、どうかな?」
「・・・・なんだと?」
姿は見えない。
でも確かに、この手にお前の心が触れた。
力を込めて握りしめれば、同じだけの力で握り返される。
もう負ける気がしない。
勝ち誇った顔で、僕等は“運命”に進言した。
「悪いけど、僕等は無敗のコンビなんだ。運命だろうがなんだろうが、全部ひっくり返してやるよ。なぁ、スティーブ」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってやがる」
「・・・・・・・なんて失敗作だ・・・・・・・。お前等の存在などすべての世界において跡形も無く消し去ってやる」
「まぁそういうなよ親父殿。こんな俺たちでも、一つだけあんたに感謝してることがあるんだ」
「感謝だと?そんなものがなんの足しになると」
「「最高の兄弟をありがとう」」
一切の皮肉ない言葉に、運命は苦々しく顔をしかめた。
Blame me if we bend to destiny ⇒ 運命に屈するものか の意。
ココでは運命とタイニーは同義語。
タイニーがしでかした行為の中で唯一諸手をあげてgjといえるのは
スティーブとダレンの兄弟設定だと思う。
2009/09/17
※こちらの背景は
ミントblue/あおい 様
よりお借りしています。