「ぶえっ・・・・・・くしゅんっ!!」
盛大なくしゃみをまき散らすと、同室のもう一人があからさまに嫌な顔をした。
「・・・・・・ひっ、くしゅっっ!」
出てしまったものは仕方ないだろ、と文句を言おうとしたら続けざまにもう一回。
「・・・・・・風邪か?」
「ひらない」
むずむずする鼻をさすりながら出たのはくぐもった声だった。
なんだか背中もゾクゾクするし、喉もちょっとだけイガイガしている気がする。
そんな風に思い始めたら熱でもあるかのように頭がぼぉーっとしてきた。
「腹出して寝てるからだぞ」
「そんなことひてはいもん・・・・・・」
「嘘をつくな。昨日だって我が輩が言うまで布団も掛けずにうたた寝しておったではないか」
言われてみれば・・・・・・そんなことがあった気もする。
でも、あんたに改めて指摘されると無性に腹が立つんだよ!
グダグダ文句を言うあんたを視界に入れたくなくて、僕はボーとした頭で扉の外を目指そうとした。
しかし立とうとした足腰には思うように力が入らず、世界がグラリと揺れる。
・・・・・・ようは、僕がぶっ倒れたってことだ。
「ばかもん!なにをやっておるんだ!!自分の身体のこと位わかるであろう!?」
うるさいなぁ。
いちいちがならなくても聞こえてるよ。
ほんと、あんたって短気のおこりん坊だ。
クレプスリーが床に倒れた僕をずりずりとベッドに引きずり上げた。
続いてほっぺたやらおでこやらを不躾に触ると、一層顔をしかめる。
不細工な顔が余計不細工に見えた。
もちろん僕としては必要以上にべたべた触られるのはイヤでイヤで仕方がないのだけれど、抵抗する元気もなかったのでされるがままに任せる。
加減を知らないクレプスリーは僕を布団にねじ込むと、隣のベッドからも毛布をひっぺがしてバサバサ僕の上に乗せ始めた。
おいおい、いくら何でもこれは多すぎる。
布団に埋められているかのようだ。
「・・・・・・僕を生き埋めにでもしたいの・・・・・・?」
力の入らない手で布団を掻き分け這い出すと、クレプスリーはなおも荷物の中から毛布やらコートやらを引っ張りだして僕に掛けようとしていた。
あんなものまで掛けられたら僕は本当に圧迫死してしまうぞ!?冗談じゃない!!
仏頂面であんたの方を半ば睨み見ると、何でだか知らないけどあんたはちょっとだけほっとしたように安堵の息を吐く。
あんたでもそんな顔するんだ・・・・・・なんてことを回らない頭で考えていると、すぐさまあんたの顔はいつも通りの気難しい顔に戻っていた。
「たわけが。どこぞから風邪なんぞもらってきおって・・・・・・。我が輩に移したらただじゃおかんぞ」
「・・・・・・わかってるよ・・・・・・」
あ〜あ。珍しく心配でもしてくれたのかと思ったけど僕の勘違いだったらしい。
きっとさっきの顔はぐるぐるする頭が見せた幻覚かなんかだったのだろう。
適当に上にのっかった過剰な布団をどかして、今一度僕は頭まで布団を被った。
風邪というのはやっかいなもので、どういう理屈かわからないけれど自覚すると一気に猛威を振るってくるから困る。
先ほどよりも背中のゾクゾク感は強いし、熱も一気に上がっているように感じた。
「・・・・・・ねぇ、風邪薬とか持ってないの・・・・・・」
少しだけ頭を覗かせて問う。
一言喋るだけでも喉の奥がズキンと痛む。
視線を動かしただけで頭がぐわんぐわんと揺れた。
「そんなものは持っておらん。バンパイアは風邪など引かん。そんな柔な作りをしておらんからな」
「・・・・・・あ、そ」
「お前は半バンパイアに成り立てで体の具合がまだ定まっていないために起きたんだろう。もっとも、お前が腹を出して寝たりしていなければ起こらなかったことだがな」
「・・・・・・こんな時でもあんたは嫌味しか言えないんだね」
別に血相変えて心配してくれなんて言わないけどさ。
もうちょっと優しい言葉を掛けてくれたって罰は当たらないと思うんだよね。
あんたに優しくされたいとも思わないけど。
「・・・・・・血さえ飲んでいればこれほどまでに弱ることも無かっただろうに・・・・・・自業自得だ」
「うるさいよ・・・・・・」
こんな時ですら、あんたはそんなことを考えているのか。
呆れてものも言えないよ。
「頭が痛くて起きあがれないか?喉が痛くて喋れないか?いい様だ」
弱っている僕を罵って楽しんでいるんだ。
なんて悪趣味な奴!
「お前が目の前でチョロチョロしないだけでこんなにも視界がすっきりしておる。
いちいち文句ばかり言ってくるうるさい小猿が居なくて静かになったわい。普段からこう慎ましやかにおってくれれば言うこと無いんだがな」
「目障りでキーキーうるさくて悪かったねっ!」
枕を一つ、思いっ切りクレプスリーの顔面めがけて投げつけてやった。
覚えてろよ!
風邪が治ったらこれまでの倍くらいうるさくしてやるんだから!
あんたが少しでもミスしたら一つ残らず揚げ足を取ってやる!
そして、僕を手下なんかにしたことを後悔すればいいんだ!!
そんな決意を胸に、僕は一秒でも早くあんたの鼻を明かしたくて布団の奥深くに潜り込んだ。
天邪鬼ふたり
3周年御礼リクで頂いた「赤師弟で風邪っぴきダレン」でした。
時系列的には1巻と2巻の間くらいの二人がまだギスギスしていた時をイメージしてみました。
まだお互い全然素直になれない時期の二人。
「心配してよ」「優しくしてよ」なんて思っても死んでも言いたくないダレンと
「心配だ」「優しくしてやりたい」と思うんだけどやり方が全然わからないクレプスリー。
結局ひねくれた言葉でした思いやれない頃の二人。
でもそれって、お互いひねくれ屋だって理解していたってことでもあるんだよね。
あ〜あ。はじめっから親子愛ちゅっちゅしてろってんだ。
ま、このギスギス期を乗り越えたからこその親子愛なんですけどね。
こちらの作品はリクエストしてくださったりおさんのみお持ち帰り自由とさせていただきます。
リクエストありがとうございました!
2011/05/30
※こちらの背景は
Sweety/Honey 様
よりお借りしています。